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伊藤亜紗「目の見えない人は世界をどう見ているのか」

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私たちは日々、五感―視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚―からたくさんの情報を得て生きている。なかでも視覚は特権的な位置を占め、人間が外界から得る情報の八~九割は視覚に由来すると言われている。では、私たちが最も頼っている視覚という感覚を取り除いてみると、身体は、そして世界の捉え方はどうなるのか―?美学と現代アートを専門とする著者が、視覚障害者の空間認識、感覚の使い方、体の使い方、コミュニケーションの仕方、生きるための戦略としてのユーモアなどを分析。目の見えない人の「見方」に迫りながら、「見る」ことそのものを問い直す。
(「BOOK」データベースより)

娘の高校の課題図書を勝手に読むぞシリーズ第二弾。

結論から行きます。

これ、良書!すっごく面白かったです。

読んで損なし。最近読んだ新書本の中でもピカいちに面白かった。いやあ、娘の学校の国語の先生は、本のチョイスがいかしてるねぇ。

そして木下さんは叫びました。「なるほど、そっちの見える世界も面白いねぇ!」
障害についての凝り固まった考え方を、これほどまでにほぐしてくれる言葉があるでしょうか。痛快なのは、木下さんが見える人の世界のことを、「そっちの世界」と言っていることです。「おたく最近調子どう?」「うん、ぼちぼちかな。そっちは?」まるでそんな感じの、軽いノリの「そっち」でした。

視覚障害者にきちんと好奇の目を向ける。

この本を書くのは、著者にとってリスキーだったかもしれません。『障害者の方を野次馬根性で見るなんて失礼な!』という世間の声を受ける可能性もなくはない。てーか、この本の感想をブログに書き綴る私ですら、ちょっとドキドキするもん。

「目の見えない人の世界って、面白いねー!」

この台詞を往来で、大声で言い放つのには、ちょっと勇気がいる…それは、私自身が“障害者=マイノリティ=弱者”のイメージから脱け出せていないせいであろうと思われます。

著者の伊藤亜紗さんは、東京工業大学のリベラルアーツ研究教育院准教授。専門は美学と現代アート。美学といっても「男のダンディズム」とかそういう類ではありません。文字通り“美”について“学ぶ”学問ね。

で、その美学を研究する大学のセンセエが、どうして視覚障害者の世界を探訪するようになったのかというと…ちょい説明が面倒ですが、美を体感する身体なるものを論ずるにあたり、五感の大半を占める視覚を遮断された人はつまり、従来の身体論の補色的立ち位置にいるのではないかというところから…ああ、もうめんどくさいなあ。

つまりはね。

見えない人は視覚を使って知覚することはできません。では、見える人の感覚全体から視覚を差し引くと見えない人になるのか?もちろんそんなことはありません。そこには「三本脚の椅子だからこその立ち方の論理」があります。つまり、聴覚など視覚以外の感覚の使い方が、見える人と見えない人では違っているのです。

上記引用の『三本脚の椅子』というのは、本書の中でしばしば出てくる例え。四本脚の椅子から脚を一本取ってしまったら、椅子は倒れてしまうでしょ?でも、元々三本脚の椅子(あるでしょ)だったら、三本の脚で立つバランスができている。四本足の椅子も、三本脚の椅子も、どっちもお店で売っている。良い悪いではなく、ただ椅子の種類が違うだけ。

無い一本の脚は「欠落」ではなく「差異」

じゃあ、三本脚の椅子は、どんなバランスの取り方をしているのかな?

…というのが「目の見えない人は世界をどう見ているのか」のトピックです。

あるいはそれは、異なる文化に属する人と関わる経験に似ているかもしれません。異国にいると、自分にとって当たり前だったことが、他人の目から見るといかに異常な習慣かに驚かされる経験がしばしばあります。それが異国に行く「面白さ」です。その土地の文化についてネットやガイドブックの「情報」として知っているのと、実際に現地に行ってその「意味」を体験するのは全く違います。

「目の見えない人は世界をどう見ているのか」は、「空間・感覚・運動・言葉・ユーモア」と5つの観点から、伊藤センセー専門の美学をベースにして論じられます。

例えば「空間」の中で、空間把握の基本は見える人が二次元、見えない人は三次元だということを、岡本太郎の太陽の塔と富士山を使って説明する、とかね。

「運動」では、ボルダリンクとマッサージの共通点、とかね。

「言葉」の項では、見える人と見えない人が一緒に美術鑑賞する「ソーシャル・ビュー」という鑑賞方式を案内しています。このソーシャル・ビューがすごーく楽しそうなんですよ。機会があればやってみたいなあ。ソーシャル・ビューがどういうものかは、ここで簡単な説明をしても誤解を招きそう。興味のある方は本を読むかネットで調べてください。見える人にとっても見えない人にとっても、すごくワクワクできそうなワークショップですよ。

視覚障害者にきちんと好奇の目を向ける。

「見えない人」の世界を知ることで、見える人と見えない人が、お互い対等に生きていくことができる。

これは何も視覚障害の話だけじゃなくって、自分と違う人間の世界を知ることで、多様な人間が、お互い対等に生きていくことができる。ダイバーシティってそういうことだよな。

娘の本棚から思わぬ拾い物でした。

良書です。おすすめ。

普段、自分が手に取らなさそうな本を読んでみるのも良いことだなあ。国語の先生~、ありがとう~。

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