中学生の慎治は、いじめっ子に万引きを強要されて実行してしまう。一方、偶然その現場に出くわした担任の古池は、事情を聞いた後、居場所のない慎治を自室に招き、とある趣味の世界に誘う。古池との交流や新たな世界との出会いに、徐々に変わっていく慎治。だが、いじめはさらにエスカレート。万引きの後始末は思わぬ事態に発展して…。
(「BOOK」データベースより)
上記の引用と同じ、中公文庫の「慎治」内容紹介を文庫本の裏表紙で読むと。
この小説を書いたのが、今野敏じゃなくて重松清なんじゃないかという錯覚に陥ります。
いじめ?スクールカースト?若者の葛藤?青春?やりきれぬ日々?
うーーーーむーーーー。実のところ言うと、私はちょい重松清作品が苦手なので、同じ匂いのする「慎治」には食指が動きませんでした。
(重松清ファンの方ごめんなさい。重松清の小説は、中学受験の国語演習でお腹一杯なんです。重松クンのせいじゃない)
ですが。
70ページまで読み進んだところで、その印象はガラリと変わります。
「ガンダムのオフィシャルな年表は、一九五七年から始まる。旧ソ連が初めて人工衛星の打ち上げに成功したことが記されている。そして、六一年の有人衛星の成功。その次が一九六九年。アポロ11号が月面に着陸してアームストロング船長が月に足跡をつけた年だ。後に、その場所は、月面都市フォン・ブラウン市の中心となる。フォン・ブラウン市には、アームストロング船長の足跡が記念碑となって残っている。そして、年表には一九八〇年、ボイジャー1号が、土星の探査をしたことが記されている。一九九九年に地球連邦政府が発足し、二〇〇九年に地球連邦軍が組織された。西暦による記述は、ここまでだ。この先は、UCとなる。UCというのはユニバーサル・センチュリー、つまり宇宙世紀という意味だ。増えすぎた地球上の人類を月と地球のラグランジュ・ポイントに作った宇宙コロニーに移住させた。その最初の年をUC〇〇〇一年とした。このラグランジュ・ポイントにあるコロニー群のことをサイドと呼ぶ。ラグランジュ・ポイントってわかるか?」
いじめにより自殺を考えていた主人公・慎治の目前で開かれた扉は。
ガンダム&ガンプラの“THE・オタクワールド”
「思いっ切りオタクの話を書きませんか」
ある日、担当編集者からそう言われて、
「本当に書いていいのか?」
思わず尋ねたが、その瞬間にはもう頭の中ではテーマが浮かんでいた。
ガンダムだ。
ガンダムのことを書こう。
……重松清じゃ、なかった!!!
慎治くんの新たな世界への扉は、小説後半でもう一枚開くことにはなりますが、ひとまずはこっちでしょ、ガンダムでしょ。世の40オーバー、一定層のダンスィの胸を熱く焦がしてやまないのが『機動戦士ガンダム』シリーズとそのプラモデル、ガンプラです。
いやウチもね、夫がご多分に漏れずガンダムに嵌ったクチなもので、ガンダムオタク古池先生がふるう長広舌は、ああ、まるで我が家の夕食時を見るような。
当然のことながら、妻も子もその影響下で、少なくとも初代ガンダムに関しては基本的な(無用な)知識を得ております。
無理難題を押し付けるときに『あなたならできるわ byセイラ・マス』とか言っちゃったりね。
外出時、何の靴を履こうか迷ったときに『足なんて飾りです!』とか言っちゃったりね。
でも我が家はまだマシな部類だわ、だってガンプラまでは手を出してないもの!…と言い張る私の視界の端には、あれー?おっかしーぞー?(コナン風)ベアッガイの限定セブンイレブンバージョンのガンプラが!
もしかして、我が家は、古池先生と同 類 …?
ともあれ。
ガンオタ古池先生の手引きにより、学校という限定区域で窒息寸前だった慎治くんが、学校以外の広い世界を知ったことによって、いじめ自体も解決に導かれます。
どう解決するのかというのは、実際に本でお確かめください。そーんなに上手くいくかね?っていう感想は正直あれど、この場合、いじめ解消が主問題ではないんだ。
世の中には、学校以外に広い世界がある、それを知ることが重要なんだ。
慎治は、将太たちのいじめを自分の力で排除した。今後もいろいろあるかもしれないが、何とかできる自信がついた。なにせ慎治は、学校だけの世界で右往左往している暇はないのだ。
ラストで今野さん、若人成長路線的なまとめに入ってますけど。
でも、結局のところ、書きたかったのはガンダムネタだから。
重松清じゃなくって、ウチの旦那と同じ匂いがするから。