日村誠司が代貸を務める阿岐本組は、ちっぽけながら独立独歩、任侠と人情を重んじる正統派のヤクザだ。そんな組を率いる阿岐本雄造は、度胸も人望も申し分のない頼れる組長だが、文化的事業に目のないところが困りもの。今回引き受けてきたのは、潰れかかった私立高校の運営だった。百戦錬磨のヤクザも嘆くほど荒廃した学園を、日村たちは建て直すことができるのか。大人気の「任侠」シリーズ第二弾。
(「BOOK」データベースより)
どんな稼業においても、中間管理職ってのは大変。
ヤクザの日村さんも例外ではありません。
シリーズ第一作「任侠書房」と第三作「任侠病院」に挟まれた、この「任侠学園」は、どの作品もヤクザ阿岐本組の面々が一般業種の経営を建て直す、今野版『愛の貧乏脱出大作戦 byみのもんた』
またはハヤテのように現れてハヤテのように去っていく『シェーン』もしくは『タンポポ』
でも本当は、中間管理職 日村が最初から最後まで苦労し続ける、今野版『世界残酷物語』…?
だが、オヤジを止められる者はもういない。それも確かだった。
さて今回の舞台は、東京都三鷹市にある私立共学校。
廃校寸前のDQN高校です。最近では“教育困難校”なんて云われかたも致しますね。名付けた人間も凄いですね。
「最近は、少子化で生徒の数も減っている。その上、教育の二極分化なんだそうだ」
「何でえ、そりゃ」「金持ちは子供に高い塾に通わせて、一流の私立中学校に入れる。でなきゃ、幼稚園のときから、有名私立大学の附属に入れるんだそうだ。—(中略)—結局、貧乏人の子供はいい大学にも行けず、いい仕事にも就けない。金持ちは優秀な子供を育て金持ちを再生産する。貧乏人は、貧乏人を再生産する。そうして、世の中の格差が広がっていくんだそうだ」
教育の二極分化の、下半分に入ってしまった学校では。
生徒はやる気なし、先生もやる気なし、学校に対する愛情もなし、ただ3年間のあいだ動物をオリに押し込めておくだけのような。
そんな悪いループを、任侠道で叩き壊す!と、まあ、そんな話で。同シリーズをお読みになった方はお分かりと存じますが、この「任侠学園」も全体的な流れは他と変わりません。
畑違いの稼業に乗り込んで、最初は周囲の反発に悩まされるものの、最終的には改革が上手く行って皆がWIN-WIN、シェーンは風の向うに去っていく…という流れは、既にお約束の安定感があります。
いやここで失敗に終わっちゃうと困るからさ。誰が困るって?そりゃ、日村さんでしょ。
お約束のごとく改革は成功し、生徒もWIN、先生もWIN、一部を除いてPTAもWIN。
で、ついでに私は思うのです。
実はこの中で一番のWINは、卒業生なのかもしれないと。
≪廃校寸前の学校を建て直すプロジェクト≫は小説の世界だけでなく、リアルな世の中でも時折ある話ですね。
かくいう私自身の母校もそのひとつ。
私の母校はそこそこ歴史のある私立女子校でしたが、2000年頃は偏差値低迷と生徒数減少による経営難で、閉校カウントダウンだったらしいのですよ。いや偏差値低迷は私の在学時代からか。
このままでは学校がツブれる!なんとかせなあかん!と経営陣が一新され、新しい理事長が就任。
新理事長が行った改革により、現在では華麗なる復活を遂げ、生徒数も評判も大幅に上昇しているようです。改革大成功!正に<リアル任侠学園>!
学校の評判が上がるにつれ学校の偏差値も上がるものでしてね。現在の母校の偏差値は、私の在学中に比べて20程度!もポイント上昇してるんですよ。
おかげさまでワタクシ、卒業した高校を聞かれて答えると『あら、頭がおよろしいこと』と勘違いしてもらえるようになりまして!
ラッキー!ヤッホホーーイ!
改革には何も携わることなく、忘れた頃に上昇した評判の利息だけ享受する。
やっぱり卒業生が最大のWIN、じゃないですかね。日村さんには恥を知れと、言われますかね?