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星新一「声の網」

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電話に聞けば、完璧な商品説明にセールストーク、お金の払い込みに秘密の相談、ジュークボックスに診療サービス、なんでもできる。便利な便利な電話網。ある日、メロン・マンション一階の民芸品店に電話があった。「お知らせする。まもなく、そちらの店に強盗が入る…」そしてそのとおりに、強盗は訪れた!12の物語で明かされる電話の秘密とは。
(「BOOK」データベースより)

星新一では珍しい連作短編集の「声の網」です。
巨大なコンピューターが人々の情報を管理し、全ての人々は電話でのやりとりを通して、コンピューターの恩恵を受けて生活している社会。

民芸店の主人は、思いついて電話をかけてみた。応答サービスの番号へ。簡単な問題なら、コンピューターよって手軽に答えてくれるのだ。電話は接続し、彼は質問した。
「神は本当にあるのでしょうか」

使われているツールが電話って処に時代を感じますね。今だったら確実にインターネット。
とはいえ、この小説が書かれたのは1970年よ?!
 

アップルがはじめて発表した「Apple I」の登場は、それより遅い1976年。そして初代Macが1984年。ちなみに初代iPhoneが発売されたのは2007年ね。
他メーカーも考えればもっと早い年代のPC、スマホもありますが、それにしたって1970年の時点では、現代のインターネットの普及なんて予想だにしないもの。
それが、ツールの違いはあれど、現代のネット依存社会をこれほどまでに予見しているなんて、げに恐ろしき星新一、という印象です。
 

とはいえ、巨大コンピューターが世界を支配する!という題材自体は「声の網」以外にも沢山存在します。
ターミネーター然り、マトリックス然り。
情報化社会で人間が常に監視対象にされている…って言えば、オーウェルの「1984」あたりを彷彿とさせるかも。
コンピューターが“神”となる話というのは、過去にご紹介したフレドリック・ブラウンの「天使と宇宙船」に収録されている『回答』というのも、正にそういうショートショートです。
 

ただですね、「声の網」では、コンピューターに管理される社会というものが、厳然とした『悪』としては描かれてはいません。

コンピューター群が人間を支配しているといえるのかもしれない。しかし、コンピューター群をうみだし、このようにしたのは、人間の心によってだともいえる。人間の心の忠実なしもべである。

「声の網」をユートピア小説などと位置付けるつもりは毛頭ありませんし、小説に出てくる登場人物たちの心にも、コンピューターに管理される不安感とか閉塞感はあります。
でもね。この小説が書かれた1970年から歳月がたった2017年の今、「声の網」の社会が決して絵空事ではない社会に暮す今だからこそ、また違った気持ちもあるんです。

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さまざまな変化はあるのだが、あくまで変化でしかない。本質的にはなにも変わらないのだ。海の波のようなもの。小さな波や大きな波はたえずおこっているが、津波となって荒れ狂うこともなければ、噴火で海底から島が隆起してくることもない。まして、海がひあがるなどということは決してない。表面だけの、終ることのない変化。
しかし、人びとはそれを刺激と漢字、満足をおぼえている。そして、安泰。それでいいではないか。
たとえ、それがコンピューター群の作り出していることであったとしても。

先日、とある掲示板サイトで「ネットショップで買物しようとして、送信ボタンを押さずに画面を閉じたら『まだ注文が終了してません』ってメールがきた。個人情報洩れてるやだ怖い」という書き込みを見つけました。
他にも「パソコンで検索した商品の関連広告が、スマホでネット見てたら出てきた。デバイス違うのにやだ怖い」とか。
 

うんうん、気持ちは分かるよ気持ちはね。ちと怖いよね。
でもまあね、それが怖いなら約款読めや。もっと言うなら、それが怖いならインターネットを使うなよ。
 

ウチの社長がよく言ってます。『便利と安全は反比例』
サーバーを構築したり、セキィリティ導入をする際の要件定義する時に出てくる言葉。
要は、玄関の鍵を防犯のため二重鍵にするとしたら、帰宅時に玄関の鍵を開けるのに手間がかかるという話と同じですね。
お客様んとこのサーバーとかネットワークも、安全性と利便性を量りにかけて、それぞれの会社に合うセキュリティポリシーを決めていくんだってさー。話によるとー。
 

いま私達の殆どが、インターネットの恩恵を受けて生活をしている訳じゃないですか。
回線費用などにかかる費用を別として、ニュースから天気予報から辞書からゲームから、多くのサービスを無料で。
無償で恩恵を受けるならば、何らかの対価を差し出す必要があります。
それが、ネット閲覧時に出てくる広告だったり、ビックデータの元情報だったり。
対価を差し出す覚悟なくして利益だけを受けようとするのは、そりゃ虫の良い考えなんじゃない?と、個人的には思います。
 

正直ね、果たしてそれを是として良いものかっていう気持ちも無くはないんだけど。
とは言え、一度得てしまった便利さというものは、そう簡単には手放せないもので。
 

十年以上ぶりの「声の網」の、コンピューター云々以外にもあまりに現代社会と合致している点が多くて、つい色々と考えるところありきです。
今読み返してみると、ほんと様々な部分で二十一世紀を予見している箇所が多くて、初めてお読みになった方はちょっとびっくりするでしょう。
そして、ちょっと怖くなるでしょう。
げに恐ろしき、星新一。
 

彼は質問した。「神は本当にあるのでしょうか」

とりあえず「声の網」の民芸店主人の質問には、私だったらこう答えるな。

「そう、Googleのサーバークラスタが今ここにある」

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