宮部みゆき「魂手形 三島屋変調百物語七之続」

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嘘も真実も善きも悪しきも、すべてが詰まった江戸怪談の新骨頂!
江戸は神田の三島屋で行われている変わり百物語。美丈夫の勤番武士は国元の不思議な〈火消し〉の話を、団子屋の屋台を営む娘は母親の念を、そして鯔背な老人は木賃宿に泊まったお化けについて、富次郎に語り捨てる。
(KADOKAWA「魂手形」内容紹介より)

「魂手形」は「たまてがた」と読みます。念のため。

江戸時代に旅のお方が関所を超えるときに見せる手形ね。どうして「魂」が付くのか、何の意味があるのかは、秘密です。

それよりも!それよりもそれよりも、皆さんに嬉しいお知らせがっ!

みんなーっ!おちかちゃんご懐妊よーっ!

ややこを授かったわよーっ!

いや、めでてえめでてえ。

「ようこそ三島屋の変わり百物語においでくださいました。手前は聞き手を務めます当家の倅、名を富次郎と申します」

めでたくご懐妊のおちかちゃんですが、残念ながら本編にはおちかちゃん登場いたしません。まぁこの先もおそらく登場することはないのではないかと。誠に残念ながら。

で、前作の「黒武御神火御殿」から変わり百物語の聞き手になった三島屋の小旦那・富次さん。暗い過去のあったおちかちゃんに対して基本ボンの富次郎さんなので、変わり百物語の様子も少々軽い心持がいたします。

いや別に悪くないよ。すこーし軽い、すこーし飄々とした、ちょっとだけ爽やかな印象。別に悪くない。

何だかもう楽しくなっちゃって、

上記の一文は表題作「魂手形」の中で、語り手のいなせな老人に粋な浴衣をもらって着替えるシーン。私、この一文がこの本の中で一番のお気に入り箇所かもしれません。

だってうら若いお嬢さんのおちかちゃんが、語り手から渡されたとはいえ「黒白の間」で浴衣に着替えるとは思えませんしね。これは富次郎さんとおちかちゃんのパーソナリティの違いなのか、それとも男女の差なのか。

さてさて。すこーしばかり軽い印象で、ちょっとだけ爽やかな印象のする「魂手形」。

読み始めはそんな感触がするものの、もちろんそのままで終わるはずがありません。だって宮部みゆきですから。

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「魂手形」の中で一番好きなのは、第一話目の「火焔太鼓」です。

このねー“ぬし様”が可愛ーのー!住んでいる“おおぼらけ沼”という名前も可愛い。ぬし様も可愛い。灰色の長い毛におおわれて、子犬のようなくりくりした目をしていて。

超熱の熱湯風呂のような沼でちゃぽちゃぽ泳ぐの。でも死ぬほど熱いの。それは“おおぼらけ沼”の水が熱いのではなく、ぬし様自身が周囲を焼き焦がすほどに熱を持っているから(つまり沼の水で冷やしているのですね)

このぬし様、語り手の地元の藩には誠にありがたい存在。ぬし様の爪を保持しておけば、どこで火事が起こってもすぐに消し止めることができるのです。爪は欲しいと言えばすぐにくれるの。偉い、偉いよぬし様。

近づくだけで焼け死にそうな熱のかたまりなので、爪をもらうとき以外には誰も近づきませんが。沼の中でたったひとりで、麓の藩を守るだけの存在ですが。

それでもぬし様は満足そうなので、私としては何の問題もございません。

良かった良かったこれで藩もご安泰—-と、いかないのが宮部みゆきでございます。

新之助はよしに、来訪の理由を語った。山辺八郎兵衛の最期を兄に伝えたい。
しかし、よしは首を横に振った。
「あなたの兄上は、もうこの世にはおりません。わたくしをご覧ください。この身は、亡き夫の菩提を弔う寡婦の尼にございます」

人を安らかな、爽やかな気持ちにさせておいて、ドンと突き落とすのが宮部みゆき。

兄嫁のよしは、なぜ髪を下ろして尼になったのか。

兄はどこに消えたのか。

可愛い可愛いぬし様の手は、どんな形をしているのか。

それがわかったときに、それまでの軽くて飄々として爽やかな印象が、がらりと変わるのです。

だって宮部みゆきですから。

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レビュアー: さくら
さくら
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