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石持浅海「人面屋敷の惨劇」

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東京都西部で起きた連続幼児失踪事件。我が子を失った美菜子はじめ6人の被害者家族は、積年の悲嘆の果てに、かつて犯人と目された投資家、土佐が暮らす通称「人面屋敷」へと乗り込む。屋敷の中で「人面」の忌まわしき真相を知った親たちの激情は、抑えがたい殺意へと変容。さらに謎の美少女が突然現れたことで、誰もが予想すらしなかった悲劇をも招き寄せていく。論理(ロジック)×狂気(マッドネス)。気鋭のミステリー2011年進化型。
(「BOOK」データベースより)

『館ミステリ』という、特殊な構造の建物を舞台としたミステリのジャンルがございます。
まず真っ先に思い浮かぶのは綾辻行人の館シリーズですね。形が十角形の「十角館」、時計が沢山の「時計館」、水車があるから「水車館」、名前にびっくり「びっくり館」などなど。
綾辻行人のお師匠様、島田荘司の「斜め屋敷」も『館』ならではのすげートリック。いや、これ、すごいよ。マジ顎外れるから。
海外ミステリではヴァン・ダインが、館ミステリの元祖とも言えるかも。
 

さて。
目指せ館ミステリ!と思い立った石持さん。建てた館が「人面屋敷」
さてさてどんな『館』かというと。
 

……白い塀に付着した汚れが、ムンクの「叫び」の顔のように見えるから、人面屋敷。

「人面屋敷、ね」
中川弘也が、ため息交じりに言った。髭のそり跡が濃い顎を撫でる。
「この程度の汚れで、お化け屋敷扱いか。子供の噂ってのは、怖いものだな」
「業を背負っているからさ」

えええええええーーーーー。
石持さーん。これじゃ『館』って言えないー。
ジャパネットたかたで高圧洗浄機買った瞬間に、名称の意味がなくなっちゃうよー。
 

きっと「人面屋敷」のタイトルありきで、中身は後付けポンで良いやと思ったんでしょうけど。そこらへんの雑な所が、また石持らしさとも言えますけど。
 

でも、まあ、仕方がない。
「人面屋敷」という、グッとそそるフレーズに魅了されてしまったのだと考えましょう。
それは私たちも同じでしょ?「人面屋敷」!グッとそそるでしょ?

行方不明になった子供を持つ親達。
「人面屋敷」の主人が子供たちを誘拐したのではないかという疑いを持ち、当の屋敷に乗り込むことになりました。
 

詐欺まがいの手口で人面屋敷内部に入り込んだ、鼻息荒い親達に比べて、出迎えた主人は余裕しゃくしゃく。
主人の態度に激高したひとりの親が、怒りのあまり!主人を刺し殺してしまいました。
まー大変。
 

すぐにでも警察に通報しなければ。でも、警察が来たら子供を捜す時間がない。しかも下手すりゃ自分達が家屋侵入で犯罪者扱いされる可能性濃厚です。
とりあえず犯人を縛っておいて、まずは子供を捜そうかとしていたら、家の娘が帰ってきちゃった。
ゴメンゴメン仲間が親父さん殺しちゃってさ~、でも大丈夫!犯人はここに……あれ?死んでる?
 

テーブルに縛り付けていた犯人も、いつの間にやら死んでいた。
まー大変。

「よし、決まりだ」
ぱん、と加茂が手を打った。
「我々は、子供たちを捜さなければならない。犯人捜しで時間を潰している余裕はないんだから、ちゃっちゃっと済ませてしまおう」

どんな異常な状況化であっても状況の解決より謎解きを優先させるのが石持ミステリの登場人物たち。犯人探しよりもさあ、先にやることあるんじゃない?と、老婆心ながら忠告差しあげたい気持ちになることもしばしば。
「人面屋敷の惨劇」においても、それは例外ではありません。
被害者家族も加害者関係者も仲良く輪になってレッツ・シンキング。いやあ、そういう彼等、好きよ。
 

謎解きの過程で、そもそもの彼等の目的であった子供達に起こったことが分かってきます。
少なくとも一部の子供達の行く末が、主人の寝室にあったスケッチブックの存在によって。

——あれ?
美奈子は、かすかな違和感を覚える。書斎の絵もまた、春香は怯えた目をしていた。
絵を見たときには、原因を由規美の幼児虐待に求めた。それが自然な流れだったからだ。しかし、絵を描かれたときの春香は、土佐に向かっていたはずだ。
—(中略)—
この事実が何を意味するのか。春香は、土佐に一度もなつかなかったのではないか。土佐は、自分になつかない子供に対して、どのような対応をしたのだろうか。
心臓を絞り上げられるような恐怖が、美奈子の全身を襲った。
危険だ。このスケッチブックは危険だ。理性がそう訴えかける。しかし美奈子は目をそらすことも、由規美を制止することもできなかった。

で、先に言っておくよ。
このスケッチブック、えぐいよ。
 

子供たちはどうなったのか、スケッチブックには何が描かれていたのか。
このスケッチブックに比べりゃ犯人探しなんてどーでも良いよ、ってくらい重・要・要・素!です。ここ試験に出ます。
 

ですので「人面屋敷」にお出かけの際は、犯人が誰かなんて瑣末な謎は気にせず、どうぞスケッチブック探しに邁進してください。
ホント、あれに比べりゃ、犯人探しなんてどーでも良いよ。どーでも。

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