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岡嶋二人「殺人者志願」

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「ある人物を、殺してもらいたい」。菊池隆友と鳩子の若夫婦は、突然の話に言葉を失った。膨らんだ借金に困り果て、鳩子の親戚である会社社長に泣きついた二人は、借金を肩代わりする条件として、殺人を依頼された。背に腹はかえられない。二人はターゲットの身辺調査に取りかかる。息もつかせぬ傑作長編推理。
(「BOOK」データベースより)

ひとごろしになるのも、大変ね。
 

タイトルから予想される通り、この作品は“殺人者志願”の若夫婦のお話です。
主人公がひとごろし(志願)だというならば、これはピカレスク小説と呼んでも良いかしら?いえいえ、そんな格好良いモンじゃありません。
言うなれば巻き込まれ型ユーモア・ミステリ。もしくは、昭和風俗の遺跡発掘か。
 

借金の肩代わりしてもらう代償に、一人の女性を殺すことを依頼されたタカちゃんとポッポ。
んー、二人の人となりを一言で説明するならば、クズですな!まごうことなきクズですな!
借金の原因(浪費)からしても、反省しなさからしても、この二人のクズっぷりは甚だしい。真っ当に生きようという姿勢は、少なくともストーリーのはじまりでは見受けられません。
そして頭も悪い。借金漬けの所以か金勘定もできないもんだから、たったの240万円ぽっちで殺人を引き受けちゃうんですよ。
 

駄目よ、ダメダメそんな安売りしちゃ。
「殺し屋、やってます。」の富澤さんをご覧なさいな。プロは650万円で受けてる仕事よ!240万円なんて雑なプライス設定するなんて全くもう(ちょっと違う)
 

性格はクズ、そして頭が悪い若夫婦。
「はじめてのおつかい」ならぬ「はじめてのひとごろし」勿論ノウハウなどないので、殺しかたを検討するのも手探り状態。
“殺しのターゲット”の生活環境を把握するために、女性の住まうマンションまで引っ越したりして。
 

——んもーう、アッタマ悪いなあー。
ご近所さんになってしまったら、仲良くなっちゃうじゃない。
気軽に行き来をするようなお友達付き合いをはじめてしまったら、殺せなくなっちゃうじゃない。
 

でも二人は頭悪いから、そうしちゃうんです。
そして予想通り、ターゲットの美由紀さんを殺せなくなっちゃうんです。
そして殺せなくてシクシク泣いている間に、別の死体が転がり込んできちゃうんです。
 

自分ちのバスルームで、何故かいつのまにか、依頼人の叔父さんが死んでいる。

宇田川は、同じ格好のままでタイルの上に横たわっている。毛布からはみ出た右手が、いやでも俺の目に入る。また消えてくれればいいと思ったが、死体は元のままだった。
おそるおそる、からだの上を覆っている毛布を引っ張った。白い顔が現われる。それで毛布を引いたことを後悔した。慌てて、持っている毛布をその顔にめがけて投げた。うまい具合に、胸から上を毛布が隠した。

このままじゃお風呂にも入れない。死体は生ゴミにも出せない。
さて、どうしよう?と思う間もなく、自宅には一通の手紙が。
手紙の主は、自分たちがやったこと、やろうとした事を知っている。そして、自分たちの知らない“何か”を、警察に通報しない代わりに渡せ、と要望している。
“何か”って、何だ?
 

——と、まあ、タカちゃんとポッポの受難はもうちょっと続くのですが。二人の殺人志願者が最終的にどうなったのかは、本を読んでお確かめになってください。
それよりも皆様には、極私的な「殺人者志願」一番の驚きをお伝えしたい。
 

電話喫茶。
 

電話喫茶って知ってます?喫茶店の各席に電話が一台ずつ置かれていて、コーヒー飲みながら電話をかけたり受けたりできるんですって。
携帯電話の無かった昭和、外出先で電話を受けるのも一苦労だったあの時代においては、画期的なシステムの喫茶店であったろうと思われます。
 

とはいえ広く普及はしなかった模様で、新宿だか池袋だかに数店できただけで終わってしまったらしい。「らしい」というのは、ほぼ同世代の東京都民(私)もリアル店舗を知らず、ネットでの情報も殆どないので。あ、当然のことながら、平成の今では電話喫茶は存在しません(多分ね)
 

当時の風俗やら流行やらを小説内に入れると、年数の経過によって小説の印象が古びてしまうのが常ではありますが。
『電話喫茶』などというレアアイテムは、単に古いというよりも、旧時代の遺物を発掘した気持ちにさえさせます。そう、気分は吉村作治。もしくはインディ・ジョーンズ。
 

ちょっと昔の小説を読んで、遺跡発掘。ああ、懐かしき昭和風俗よ!

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