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石持浅海「殺し屋、やってます。」

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ひとりにつき650万円で承ります。ビジネスとして「殺し」を請け負う男、富澤。仕事は危なげなくこなすが、標的の奇妙な行動がどうも気になる―。殺し屋が解く日常の謎シリーズ、開幕。
(「BOOK」データベースより)

石持ミステリの登場人物に総じて共通しているのは、総じてモラルが低いってこと。

「殺し屋、やってます。」に関しても、これまた然り。

主人公のモラルの低さは、そりゃまあ職業的に当然かもしれません。なんたって、彼、殺し屋ですから。

《依頼の決まり》
・ご自分の身分証明書と、殺したい人の写真をお持ちください。
・殺したい人の情報(氏名・住所など)をお知らせください。
分からない場合は、こちらでお調べするオプション(別料金)があります。
・ご依頼を受けてから三日以内に、お引き受けできるかどうかお知らせします。
・お引き受けした場合、原則として二週間以内に実行いたします。

富澤さんに殺人を依頼する際の料金は、前金として300万円、殺害確認後に350万円と、計650万円かかります。小切手不可。為替不可。銀行振込の場合はATM上限の関係で複数日に分割してお振込みください。

この650万円という料金設定は、東証一部上場企業の社員の平均年収を基準としているらしいです。一年間の年収を投じてまで殺したいか、と依頼者に覚悟を問う目的と、それ以上高くしちゃったら買い控えられちゃうしね、というさじ加減。

さすが本業(副業)経営コンサルタントの富澤さん。マーケティング的に絶妙な料金設定と褒めておこう。

請け負ったそれぞれの殺しがあまりにもスムーズに、あっさりと業務完了してしまうのは、リアリティよりシチュエーション重視の石持作品ならではと思って下さい。

社会派ミステリじゃないので、警察の捜査とか、サスペンスフルなドキドキなどはありません。

エモーションよりロジック。殺し屋が探偵役のミステリなんて、ちょっとウキウキしちゃうでしょ?

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「殺し屋、やってます。」は各編とも、殺害依頼の依頼者or対象者に関してふと感じた疑問を、仲介役の塚原さんと推理していく形式になっております。

『どうして独身男が紙オムツを買ったのか?』

『どうして対象者は水筒の水を公園に捨てるのか?』

『マザコン男が婚約者を殺したいのは何故なのか?』

それぞれの謎と推理のほどは…うーん、オマケ程度かな?ミステリとしてはあっさりめです。

それぞれの謎よりも魅力的なのは、殺し屋である富澤さんご本人にあります。

石持作品の主人公としての本領発揮、モラルの低さが、とってもキュート。

話しながら、塚原の表情が変わっていくのがわかった。皮肉な笑いを浮かべたのだ。
「殺し屋が、警察に協力したのか」
僕はあっさりと答える。「うん」
「自分は人を殺して報酬を得ながら、他人の殺人は許せないか」
「だからだよ」
僕の回答に、塚原は瞬きした。「えっ?」
—(中略)—
「塚原。今の日本で、殺し屋に、なぜ存在意義があると思う?」
「存在意義?」
「人の命が、大切だからだよ」
僕はきっぱりと言った。
「人の命が大切だからこそ、簡単には奪えない。そこに殺し屋が存在する意味が生まれる—(中略)—でも、日本がテロ事件が頻発する国になったら、どうなる?人死には日常茶飯事になる。命が軽くなるわけだ。だったら、わざわざ高い金を払って他人に殺してもらう必要はなくなる。自分が殺せばいい。命が軽くなるとは、そういうことだよ。そうなってしまったら、こっちはおまんまの食い上げだ。僕は僕の生活のために、警察に通報した。ただ、それだけのことだよ」

さすが本業(副業)経営コンサルタントの富澤さん。ビジネスモデルを見極める力はプロフェッショナル。

この本のカテゴリは“小説”に入れるべきかなあ。“ビジネス書”として押したい気持ちもあるんだけどなあ。

無理かなあ。企業モデルが殺し屋じゃ、ニッチにすぎるかなあ。

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