生徒、教職員あわせて百二十余名の命を奪った「青美看護専門学校火災事件」。その惨劇の前触れは、すでに一年前から始まっていた。轢死、飛び降り、練炭自殺……学校の内外で続発する生徒たちの非業の死。その周囲には、いつも「彼女」の影がちらついていた–。阿鼻叫喚の地獄と化した火災の、唯一の生存者が語る看護学校時代の“雨宮リカ” の素顔とは。シリーズ第六弾!
(幻冬舎文庫「リフレイン」巻末紹介より)
どうしてどうして僕たちはー出逢ってしまぁあったーのーだーろー。
壊れるーほどーだーきしめたー♪
「リフレイン」と聞くとユーミンの「リフレインが叫んでる」を歌いたくなるのはお約束。
でも、この歌と「リカ」は違うようでいて、その実は違っちゃいない。
どうしてどうして僕とリカは出逢ってしまったのだろう。
壊れるほど抱きしめられるんだ。
怖い。…そして臭い。
その時、突然…何とも言えない不快な臭いが漂ってきました。酢のような刺激臭で、それに生ゴミや腐った肉の臭いが混ざったような…うまく説明できません。覚えているのは、喉元まで胃液がせり上がってきたことだけです。
でも、その悪臭はすぐに消えました。
五十嵐貴久が生み出した悪魔の毒毒モンスターリカちゃんの『リカ・クロニクル』ついに6冊目に突入です。
今回のリカちゃん、私が待ち望んでいた看護学校時代の話!きゃー嬉しい。きゃー待ってました!
リカちゃんがミニラからゴジラに成長するに至った青☆春の思い出話が読めるんですもの。
アイドルのデビュー前お宝画像を発掘するようなもんですよ。多分言い過ぎ。
とはいえ、この本を手に入れてから実読するまでには、ちょっと私も躊躇しました。
私の中で“リカ”に対する過剰な期待があることは、自らも承知のとおり。
リカがどんなに「リフレイン」でモンスターぶりを発揮したところで、おそらくは自分の期待感を上回るまでにはいかないであろうことは容易に予想できるのです。
多分きっと読後には「これだけ?」とか「肩すかし…」という感想を抱くであろうと。
しかし、それはリカのせいではありません。リカを産んだ五十嵐貴久のせいでもない。
買い物依存症の人と同じです。何を買っても、どんなに買っても、いくら所有しても飽き足らない。どこか物足りない。
与えられたものが良い・多い分だけ、もっともっと欲しくなってしまうのです。
人間の欲望は限りない。まるでリカみたいに。
「日菜子、どこにいるの?」
「何してんの?リカだよ?」
「冗談になってないよ」
「どうなってるのリカばんごうまちがってるのかなそんなはずないよねわたらいひなこさんのばんごうですよね」
「バカ」
「……もしもし?」
「じゃあいい、家へ行く」
「リカすごくイライラするリカいやだこんなのリカじゃないリカはリカはいまリカは」
そんな読者のわがままボディにどう五十嵐貴久が応えるのかと思いきや…いや、物量で攻めてきましたよこの人!
殺す殺すチョー殺す。死体で腹いっぱいにさせようとばかりに、死体の山を積み上げてきました。
火災で120人余り(実際には124人)ってだけでもかなり大量死なのに、それ以外にも飛び降り自殺でしょー?心中でしょー?リカが直接手をくだした以外の死亡を含めて、本1冊で総勢135人が死亡しております。まあ、確かにお腹いっぱいではある。
ちなみに「リフレイン」の中で一番のヒットはエレベーター事故のシーンです。惨劇の舞台であるエレベーターは、ひと昔もふた昔も前の鉄格子エレベーター。ホラーゲームの世界とかにありがちなヤツですね。
「今どきそんな古いエレベーターあるわけねーべ」とツッコミを入れたくなった貴方。いや、実際にありますよ?てか平成元年にはありましたよ。
私の母が亡くなる前に入院していた某台東区の病院は昭和30年代前半に建てられた病院だったので、建物も設備もチョっ古でした。エレベーターも鉄格子で、エレベーターガールでなく専属エレベーター爺さんがわざわざ操作するタイプ。
「この病院に入院していて母は大丈夫なんだろうか…」と、ガタガタ動くエレベーターに乗りながら不安になったのを覚えています。ああ、でも母が死んだのはその病院のせいじゃない。
「リフレイン」のエレベーターシーンが楽しいのは、私の個人的思い出(に由来するイメージ)によって想像力が増しているという可能性もありますが…でもそれだけじゃないよ。ええで、あのシーン。お好きな人にはたまらんで。
さて、総じて楽しく読んだリカちゃんの青☆春時代のお話ですが、ひとつだけ残念な点がございます。
できれば「マヅルカ」を聴きながら、本書『リフレイン』をお読みください。それでなくても嫌な話が、ますます陰鬱になり、不快で嫌な気分になるでしょう。ですが、それを求めているのは「あなた」なのです。
「リフレイン」のあとがきで作者五十嵐貴久はこう書いていますが、五十嵐さん!あとがき読むときには本文読み終えてるって!
本文よりもあとがきと解説を先に読む御仁もいらっしゃますでしょうが、やっぱり本は最初(本文)から読むべきだと思うのよ個人的には。
そこで親切なさくらちゃんが、これから「リフレイン」を読む人のためにマヅルカを置いといてあげましょう。
「リフレイン」を読みながらYoutube再生させておけばバッチリです。
さらに陰鬱な気分が盛り上がること請け合いです。
でもマヅルカが好みでない人は、ユーミンのCDかけて「リフレインが叫んでる」を聴いても良いです。
だって「リフレイン」と聞いたらどうしても「リフレインが叫んでる」を連想するのは、ユーミン世代のお約束ですから。
《追記》
本記事アップ後に作者の五十嵐貴久さんからコメント頂き、あのエレベーターシーンが映画「サスペリア2」のオマージュであることが判明しました。
サスペリア怖いから観てない私の代わりにどなたかご検証くださいませ。