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有川浩「三匹のおっさん」

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還暦ぐらいでジジイの箱に蹴り込まれてたまるか、とかつての悪ガキ三人組が自警団を結成。剣道の達人・キヨ、柔道の達人・シゲ、機械いじりの達人の頭脳派・ノリ。ご近所に潜む悪を三匹が斬る!その活躍はやがてキヨの孫・祐希やノリの愛娘・早苗にも影響を与え…。痛快活劇シリーズ始動。
(「BOOK」データベースより)

愉快痛快、ああ爽快。

子供の頃の悪ガキ共は、おっさんになっても相変わらず悪ガキなようで。

60歳をすぎた位じゃ、まだまだリタイアにゃ早すぎる。

そもそもですね。還暦を迎えれば老人扱いってのも今は昔の話。最近のアラカンのマダム&ダンディは、下手すりゃ最近の若人よりよっぽどアクティブな毎日を送っておられます。

そう思うのは私自身が、おっさん年代の方に段々と近付きつつあるからの感想なのでしょうか。いやでもね、客観的に見て、近年の還暦世代って“おじーちゃんおばーちゃん”とは言い難いと思いますのよ。会社を定年退職しても、直ちにハッピー・リタイアメント生活に移行する方のほうが少数派だと思いますしね。例え経済的な不安がなかったとしても。

還暦=ご隠居さんという図式は、現代の社会情勢にはそぐわない。

60歳の男性も、孫以外からは「おじいちゃん」なんて言われたくない。

おっさんと呼べ、おっさんと。

仕方なく——本当に心の底から仕方なく、清一は還暦祝いの三点セットを身につけた。
「お義父さん、よくお似合いですわー」
カチンときた。本気でこれを似合っていると言うのなら、あんたはよっぽど俺をジジイの箱に蹴り込みたいようだ。

「三匹のおっさん」のひとり清一さんは、この度目出度く60歳の誕生日で大手ゼネコンを定年退職した身です。

副業の剣道道場も生徒が途絶え、嘱託で用意された子会社経理の仕事は、いまいち自分のプライド的に忸怩する。

いまいち出来の悪い息子夫婦と、いまいち×2出来の悪い孫息子に悩まされながら、楽しみといえば幼馴染の男3人衆で酒を酌み交わすくらいがせいぜい。

ジジイとは自認したくなくても、頭カッチコチでセンスレスの“THE・ジジイ”ですね、傍から見れば。

そ・れ・がっ。

幼き頃の悪ガキ仲間の一人が提案した、リタイア後の暇にあかせた地域の自警団(非公認)を結成してから、あら、あらあらまあまあ。

ジジイから“おっさん”への、華麗なる転進がはじまります。

祐希が言いつつドスンと縁側に腰を下ろした。
「あのやたら危ねえチビのおっさんにも言っとけよ。アンタら、ポロシャツでもTシャツでもカッターでも何でもかんでもズボンの中に突っ込むだろ。そんでスーツ用のベルトでぎゅーっと締め上げて、ネズミ色のスラックスだろ。あれだけでもう年齢十歳増しだから!」

有川浩自身が『ジジイ萌え、オッサン萌え』を自認するだけあって、この小説では三者三様のオッサン萌え要素がグイグイ押されています。

しかしながら有川さん、ジジイにはジジイなりにいかしたジジイであって欲しいと思われるのか、シルバー男性のファッションセンスについてはページ数を割いて『正しきおっさんファッション像』を声高に説いています。

世のオッサン方!シャツインは不可よ!スーツ兼用のベルトも不可ね!私個人的には白靴下も不可にして欲しい。有川さん次回作では是非、白靴下の害悪についても追加にて是非!

しかしながら、世の女子が何も全員オッサン萌えではありませんので、おっさんばっかりじゃ読者層が限定されます。

そこで!「三匹のおっさん」では、おっさんだけでなく高校生のピュアな初恋も並行して描かれます。

清一さんの孫息子の祐希くんと、則夫さんの一人娘 早苗ちゃん。

この二人のじれったーーーい恋模様が、有川きゅんきゅん街道の花電車。さあ、若者きゅん好きは思い存分ここできゅんきゅんして!

しかしこの二人、高校は別としてもどうやら同じ中学校出身であることが途中で判明するんですけどね。同い年なのに全く面識が無かったってのが逆に不思議です。どんだけマンモス校だったんだ?

祐希と早苗の恋模様は、一刻も早くきゅんきゅんしたい読者の気持ちを裏切るようにじれったく進んでいきます。

早苗ちゃんの方は母亡き後のプチ主婦生活で忙しく、祐希くんもバイトに忙しいという制約もありますが、もっと厚いジェリコの壁が「やたらと危ねえチビのおっさん」早苗の父、則夫。

私、この則夫さんがおっさん三人衆のなかで一番好きでして!腕っ節には自信がないインドア派ですが、その分キレッキレなのが頭脳の“切れ”と性格の“キレ”

「則夫・エレクトリカルパレー-------------ドッ!」

お手製高圧スタンガン二刀流で悪漢に立ち向かう「危ねえチビのおっさん」過剰防衛どころじゃない、積極的な攻撃意図。いやもう大好き。銃刀法グレーゾーンの飛び道具すら持ってるし。

娘がレイプ魔に襲われかけた際、怒り心頭に発した則夫の恐ろしさといったら、ホラーよホラー。

よくレイプ魔が殺されずにすんだものだと、レイプ魔に対して一抹の同情すらしそうなほど。しないけど。

そんな則夫の愛娘に手を出そうものなら、祐希くんの生命が危ういですね。

きゅんきゅんを求める読者の願いは、まずこのジェリコの壁を崩すところからはじめなければ。

祐希くんがクラーク・ゲーブルに成り得る日は果たして来るのか?!

おっさん萌えだけでない、スリルとサスペンスに満ち溢れた(?)「三匹のおっさん」。

続く第二弾、第三弾で祐希の葬式シーンがない事を祈ろう。切に祈ろう。

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