娘の結婚、加齢に肥満、マイホーム購入、父親の脳梗塞……家族に訪れる悲喜こもごもを、ときに痛快に、ときに切なく描き、笑ったあとに心にじんわり沁みてくる、これぞ荻原浩!の珠玉の家族小説短編集。
勝手でわがまま、見栄っ張り、失礼なことを平気で言って、うっとうしいけどいないと困る、愛すべき家族の物語。
(Amazon内容紹介より)
荻原浩は、みっともない人、カッチョ悪い人を書くのがお上手。
「家族写真」にも、みっともない人と、カッチョ悪い人がワンサカ出てきます。
みっともないなー格好悪いなーと、ワハハと笑って楽しむだけなら、それも良いけど。
自分に置き換えてみれば、ちょっと身につまされる。
そして、読後にちょっとほのぼのする。
そんな楽しみ方もできるのが、荻原浩の小説群であります。
娘の結婚、家族でダイエット作戦、オープンハウスの見学会、ドライブ中のしりとり、etc.etc.
どれも読んでおかしかったり、身につまされたり、ホロリとしたりするのですが、一番個人的に気に入った話は『プラスチック・ファミリー』です。
主人公は51歳のフリーター。
定職なし、金なし、家族なし、恋人なし、友人なし、生きる楽しみなしのないない尽くし。
甥っ子の結婚式にも行かず(行けず)コンビニご飯と機械油みたいな匂いのする安い焼酎を飲むだけの毎日。
それが。
ゴミ漁りに行った廃品回収場に、一体のマネキンが捨てられているのを見付けたことから、彼の時間がゆっくりと動き出します。
酔っ払った勢いで持ち帰ってきてしまったのは、そのマネキンが、過去の恋人にどこか似ていたから。
はじめは暇つぶし、ほんの遊び心で、マネキンをかりそめの家族として扱う内に、彼自身の生活が人間味を帯びてくる。
マネキンに女性用の服を与えることによって、彼自身の身なりを見返してみたり。
マネキンにちゃんとした食事をさせなくちゃと思って(食べさせません。気持ちだけ)、彼自身がコンビニご飯一辺倒の生活から脱してみたり。
マネキンと向かい合って座るためのダイニングテーブルを購入し、ただの寝床だった住まいを生活の場に変えたり。
もちろんね、マネキンは単なる人形だってことは、わかっているんだけど。
“娘”が欲しくなって、子供サイズのマネキンを通販で購入しちゃったとしても、わかってはいるんだけど。
例え嘘でも、遊びでも、“家族”がひとつ屋根の下に居ることが、どんなにか主人公を救うか。
彼が人生を立て直した時点で、彼は、マネキン=家族とドライブ旅行にでかけます。
レンタカーで。車にマネキン2体を乗せて。行き先は、過去の恋人と昔行った海まで。
その海で彼がどうするのか、マネキン=家族はどうするのか、彼はこれからの人生をどう生きていくのか。
『プラスチック・ファミリー』の最後は、切なくって、ホロホロとくる終わり方をします。
荻原浩は、みっともない人、カッチョ悪い人を書くのがお上手だけど
ホロリとくる、切ないあたたかさを書くのもお上手。
笑ったり、切なくなったり、ほっこりしたり。荻原浩の「家族写真」は忙しい。