みんながこわがるふるいそうこにぼくはひとりではいった。するとそこには…。岩井志麻子と寺門孝之が導く妖しく美しい世界。
(「BOOK」データベースより)
映画「卒業」を「小さな恋のメロディ」と勘違いしている人に是非読んで頂きたい「おんなのしろいあし」
唐突ですが「卒業」という映画をご存知でしょうか。
ダスティン・ホフマンが教会の窓から「エレーン!」と叫ぶ、アレですよアレ。
映画評じゃなくて書評ブログだろうって?まあしばしお付き合いあれ。
「卒業」のラストシーンは有名ですが、あのラストシーンだけ知っていても実際に映画を観たことがない人の中には「卒業」のストーリーを、若い二人の淡い初恋成就物語だと勘違いされている人もいる、らしい。
それ違うから!トロッコ乗って清らかな少年少女が逃避行するのは「小さな恋のメロディ」の方だから!
「卒業」は若い男を誘惑する色ボケババアとリビドー全開性欲マシーンとの、こぎったないストーリーだから!
一流大学を卒業した前途洋洋たる青年ベンジャミン(ベン)を、色仕掛けでベッドに誘うベン父親の仕事仲間の奥さん、ミセス・ロビンソン。
まあ一度は『据え膳食わぬ』と断っても、若者ですからねえ。熟女の誘惑にはそうそう勝てはしないでしょう。元々勝つつもりなんてないくせに。
二人が不倫の関係となって愛欲ワールドに突き進むだけならば、それはそれでご家庭の問題なので民事不介入。お好きになさってという感じなんですが、問題はこの先だ。
やはり大学を卒業して帰省した、熟女の娘でありベンの幼なじみ、エレンとの再開からトラブルは勃発します。
リビドーMAXのベンジャミンくん。母親だけで満足しときゃー良いものを、久しぶりに会った若いオナゴにクラクラきちゃう。それって何て親子どんぶり。
「やっぱ若い方がいーし。ピチピチだし」と、娘に乗り換えたくなったベンですが、オバサンとしても納得はできませんわ。
自分のツバメが義理の息子になってしまうなんて耐え難い。
で、別れるーだ別れないーだのスッタモンダのあげく、馬鹿MAXなベンはエレンに「お前のかーちゃんの浮気相手、俺っす」と自らゲロってしまう。
二人の不倫関係がオバサン家族にバレて、とーちゃん大怒り、娘ギャン泣き。ベンはオバサンとも娘とも別れさせられて、無為無職のプーに成り果てます。
しかしながら!リビドーMAX青少年は、そう簡単にはあきらめたりしません。娘の近くに引っ越して、ビバ無職プーの有り余る時間を有効活用して娘を追い回すストーカーに転じます。
たった1回しかデートしたことがない相手に対して、何故そこまで執着するのかベンジャミン。
娘としたら、実家に帰って出逢った彼氏は母親の愛人だわ、泣く泣くあきらめた相手にはストーカーになられるわ、親との関係は悪化するわでもうサンザン。まさに踏んだりけったり。
「仕方がないから結婚でもするか」という結論に飛びつくのは、そういう時代なのでしょうか。夫となる相手の男にもいい迷惑だ。
で、あの有名なラストシーン。
結婚式が執り行われる教会で、突然高窓の向こうに現れたベンジャミン。自分の名を繰り返し叫ぶかつての恋人、現ストーカー。
醜く顔をゆがめて怒る父親、母親、夫となる人…パニックに陥ったエレンは、その場から逃れるようにベンジャミンの元に駆け寄り、ウェディングドレスのまま乗り合いバスに飛び乗って、ふたりはそのまま何処へとも知れぬ道行へ…。
えええー?!エレン、どうした?!
観客のアゴ外れっぱなし。なんでエレンちゃんなんでそいつについて行っちゃうのー?!
映画「卒業」のDVDパッケージにでも出てくる、ダスティン・ホフマン演じるベンジャミンの前に突き出される、女の白い足。
ハイ皆さんお待たせしました。ここからようやっと本題の、怪談えほんシリーズ「おんなのしろいあし」です。
前置き、ながーい!
「おんなのしろいあし」に登場する、白シャツ半ズボンの少年。
少年が通う小学校には、今はもう使われなくなった古い倉庫があります。
その倉庫では、オバケが出ると。怖い怖い、オバケが出ると。
だから、ぼくは ひとりで、たんけんした。
あめの ふる、くらい ゆうがた、ひとりで そうこに はいった。
古い倉庫にオバケが出るというウワサは正しかった。ひとりきりで倉庫に入った少年が見たものは、女の、巨大な、白い足。
「おんなのしろいあし」は、怪談えほんとは銘打たれてはいるものの、別に怖くはありません。
倉庫の天井まで達する巨大な白い足は、特に悪さはしません、
ただ、凄くエロティックです。
まるで映画「卒業」で青年ベンジャミンを誘惑する、ミセス・ロビンソンの足のように。
女の白い足は、ただそこに居るだけで、少年を捉えて離しません。
少年が倉庫を出ても、巨大な足はついてくる。
少年の頭に、身体に、からみついて、少年の脳裏を白い足でいっぱいにします。
リビドーという名称も、その存在すらまだ知らないウブな少年を、その白い足で誘惑する。
これは、怪談話とはまた違った意味で、ホラー。
そういえば「おんなのしろいあし」の作者は岩井志麻子だ。岩井志麻子と言ったら若い子好きと有名…。
逃げろ、少年!
キミは狙われているぞ!
その倉庫に入ったら、巨大な足にからめとられて心が帰って来れなくなるぞ!
その白い足の持ち主は、しまこだ!