トイレさんはみずがだいすきです。でも、もうながいあいだみずはながれてきません。やまおくのだれもすんでいないいえのなかでただじっとしています。そんなあるとき…
(「BOOK」データベースより)
ずりずりずり
ずりずりずり
ずりずりずり……と、森をずりずり這う洋式便器。
我が娘のひと言。
「この人(作者)ダイジョーブ?」
さらにひと言。
「これ、よく編集者がOK出したね!」
なにその突然の編集者目線。
使われなくなった空き家のトイレって、水が枯れてしまうじゃないですか。
あの水が無くなると、匂いやら虫やらが下水から上がってきてしまうそうです。「封水」ってちゃんと名前もあるらしい。知らなかったわー。
トイレの快適空間を維持するためにも必要な封水ですが、それだけじゃない大切な役割。
水が無くなると、トイレさんが、さみしい。
トイレさんは みずが だいすきです。
でも、もう ながい あいだ みずは ながれてきません。
やまおくの だれも すんでいない いえのなかで
ただ じっとしています。そんな あるとき
そんな、あるとき。
「もう まつのは やめた」
エイッ!
なんとトイレさん(便器)、トイレ(空間)から脱出!
流れて来ない水ならば、自ら水のところまで行けば良い。
水を求めて家を出て、森へ、川へと……。
「トイレさん」を描いた竹与井かこさんという方は、個人名ではなく2人のユニット名だそうです。
で、竹与井かこさんズの絵本デビュー作が、この「トイレさん」
あー、えーっと、これがデビュー作ってファンキーよね。嫌いじゃないわよ嫌いじゃ。
長新太ばりのファンキーな筋立てで、そういえばちょっと色合いもカラフルで長新太っぽい。
三つ子の魂百までと申しますし、竹与井かこさんズはこれからユーモア・ナンセンス路線をずりずりと突き進むのでしょうか。
それとも全く違う路線を開拓するのでしょうか。
娘の編集者目線が伝染して、見知らぬ竹与井かこさんズの将来に期待よ。
ところで。
川にじゃぼんと浸かったトイレさん。
この先、さらに水を求めてずりずり彷徨います。
川よりも多い水があるところと言えば?そう海。
海には何がいると思う?
洋式便器と形状が似た、海の底にいる生き物ってなんだと思う?
トイレさんが海の底まで行き、そこで、自分と似た形状の何かと出会ったら……。
「もう まつのは やめた」
エイッ!
水も、友達も、幸福も、安寧の地も、自ら探しに行かなきゃ見つからない。
家の中で待ってないで、出かけましょう。ずりずりと。ああずりずりと。