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我孫子武丸「弥勒の掌」

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愛する妻を殺され、汚職の疑いをかけられたベテラン刑事・蛯原。妻が失踪して途方に暮れる高校教師・辻。事件の渦中に巻き込まれた二人は、やがてある宗教団体の関与を疑い、ともに捜査を開始するのだが…。新本格の雄が、綿密な警察取材を踏まえて挑む本格捜査小説。驚天動地の結末があなたを待ち受けます。
(「BOOK」データベースより)

ううーむ……。

確かに上記の内容紹介の通り驚天動地の結末ではある。それは否定しない。

殺人事件の解明というよりその後の、最後の最後の締めくくり方がもっと驚天動地の結末ではありますが。ええっ?!なぜそうなる?!そっち?!

しかしながら、それよりもっと驚天動地なのは「弥勒の掌」の主人公 辻と蝦原ふたりのクズっぷりにあります。

一瞬、何か裏切られたかのような思いを抱いたが、すぐにその思いは失笑に変わった。
こんなことを裏切りだなんて言ったら、自分のしたことは一体何なのだ?あれこそが裏切りであり、最低のしうちと言っていいだろう。

我孫子武丸の小説は、私かなり好きなんですけど。彼の小説で好きなジャンルは、鞠小路鞠夫シリーズとか「探偵映画」とか、ほっこりユーモア小説の類なんです。

「殺戮にいたる病」とか「狼と兎のゲーム」とかの、怖い系ダーク系は、嫌いなのよーまぁ読むんだけどさー読んだら読んだで面白いんだけどさー。でも嫌いなのよー怖いから。

あなたが読後にいやーーーな気持ちになるのがお好みの人だったら「狼と兎のゲーム」読んでみそ。いやーーーな気分になれること請け合いよ。

ちなみに当ブログ ほんのむし では多分この先も「狼と兎のゲーム」を紹介することはありません。だって読み返したくないもん。怖いじゃん!

「弥勒の掌」に話を戻しますと。この小説は、私個人の好みで言えば「嫌い」の引き出しに入ります。小説の好き嫌いというより、主人公の辻と蝦原ね。こいつらがまあ、揃いも揃ってクズなもんで。

まず辻さーん。高校教師の彼、3年前に教え子と関係をもって妊娠させた過去があります。公立学校の教師っていいねー。問題を起こしても学校を異動すればお咎めなしなんだ。私立の学校だったら即クビだよね。

浮気発覚後、妻とは冷戦状態。その妻が突然姿を消しても、探すどころか携帯電話で連絡をとることすらせず、残していった洋服を即刻ゴミに出したりしています。

で、近所の人の通報により警察が来てはじめてオロオロ。妻の身が心配のオロオロじゃなくって、自分が殺人罪にならないかとオロオロ。御身大切!

次に蛯原さーん。妻の突然の死に嘆き悲しむ愛妻家ね~、と思いきや、主に仕事面でクズ発揮。地元のヤクザから賂を受け取って、捜査情報を流しているのが発覚して本庁に呼び出しくらってます。

図々しくて乱暴で口が悪くて、いかにも昭和!な刑事像。妻の気持ちも確かに分からんじゃない…って、妻はもう死んでますから、まあ生前、色々とね。

片や、妻が失踪。片や、妻が死亡。

ふたつの事件から伸ばした線は、ある新興宗教の本部に焦点が当たる。

二人の妻たちは、新興宗教≪救いの御手≫に殺されたのかもしれない。

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私としては、ちょっとこの小説は短すぎじゃね?という感想も正直あります。もっと件の新興宗教≪救いの御手≫について続けて欲しかったわ。

新興宗教といえば荻原浩の「砂の王国」でも、主人公達がビジネスとしてのカルト宗教団体を創ってましたが、それと同じような匂いがします。今時の若人にアピールするにはスマートでシステマティックな宗教法人運営も大事なんですかね。

あと、広告塔としての美女とイケメン。昔も今も、これ大事。

いつの間にか涙が溢れ出し、顎からぽたぽたと二筋の流れとなってジャージを濡らした。
その涙を拭いながら、侮蔑の表情を予想しつつ見返した愛蓮の瞳にあったのはただ慈愛の表情。それを見た瞬間、恭一の喉からは激しい嗚咽が漏れていた。愛蓮はゆっくりと立ち上がって近寄ると恭一の前ですっと身を沈め、赤ん坊を抱くように彼の頭を包み込んだ。
恭一は愛蓮の胸に顔を埋め、声をあげて泣きじゃくった。
これまで経験したどんなセックスよりも甘美で、どんなスポーツよりも爽快で、そしてどんな芸術よりも心震える体験だった。

個人的には、百蓮大師様と金剛大師様の、この先のご活躍が読みたかった。嘘。きっとこの不浄な世を救うためのご活躍をされたに違いないわ。嘘。

百蓮大師様と金剛大師様が何をした人かっているのは、ヒミツです~。

新興宗教≪救いの御手≫はさておきですね。

「弥勒の掌」の主題である、辻と蛯原の妻たちを殺したのは、一体誰だったのかというと。

その犯人も、ラスト近くで明かされます。

そして読者は思うのですよ。

クズの妻を殺した犯人は、やっぱりクズだった!これこそ正に驚天動地!

二人を殺した犯人2名の、それぞれの犯行動機。これは、被害者の夫のクズっぷりに負けずとも劣らないクズっぷりです。ああ、どこがどうクズなのか言いたい。でも言えない。

最初からラストまでクズまみれ。読後いやーーーな気持ちになれること請け合いです。

我孫子武丸の、私が嫌いな小説群。

嫌いだったら読まなきゃいいって?それがどうして、読まずにはいられないんだなあ。

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