(クリスマス・イヴに死のう)人里離れた山林に死に場所を求めた「僕」の前に、一台の車が現れた。やって来たのは、自殺サイトで知り合ったらしき男女6人―。彼らの最期を陰から見届けた僕は、その中の一人の美少女に目を奪われた。彼女のあどけない死に顔が、僕の冥い欲望に火をつけた…。人間の深い業を描き、戦慄の世界へと誘う衝撃の書。
(「BOOK」データベースより)
タイトルの「死人を恋う」は「しびと を こう」と読みます。念のため。
ある一定層の秘めたる願望充足を叶えるために存在する、大石圭の小説群。
例えばこんな願望を。
いたいけな少女を思うがままに育てて愛人にしたい。
女を奴隷にしたい。
人を殺したい。もしくは、人が人を殺す様が見たい。
人肉を食べたい。
それから。
死んだ女とセックスがしたい。
…との願望を満たしたい貴方には、大石圭の「死人を恋う」がおすすめです。
そんな願望を持っちゃってる貴方もどうかと思うけど、おすすめしている私もどうかと思うね。
エアコンを作動させているとはいえ、部屋の空気はまだひんやりと冷たかった。けれど、下着姿の少女の皮膚に鳥肌ができることはなかった。その当たり前のことが、僕には嬉しかった。
そうだ。彼女は生きていないのだ。僕の求めるものを、拒むことはないのだ。
親の遺産で暮す引きこもりニートが、自殺するために出かけた富士の樹海で他の自殺者にばったり遭遇。
練炭自殺した女子高生を自宅へ連れ帰り、一度やってみたかった女性との性行為☆レッツ童貞喪失☆
コミュ障でも相手は喋りませんから安心。経験値のないアレヤコレヤに関しても「下手ね」とか「ちっさいわね」とか蔑まされずに安心、ってなところが主人公の原動力でしょうか。
つまり、主人公は別に屍姦が好みなんじゃなくて、動かず喋らず反応せず、の、人形でも宜しい訳です。マジモンのネクロフィリアからしたら邪道かもしれませんね。
「死体はただ単に動かなければ良いってもんじゃない!死体性愛の真髄を彼は知らない!」という好事家の皆様へは、章ごとの頭に古今東西の死体愛好者達のエピソードが綴られておりますので、フィクションでなくリアルなネクロフィリア事件簿をお楽しみください(何言ってんだワタシ)
主人公に話を戻しますと、彼は別に「死体」を愛している訳ではないので、死んだ彼女が腐ってしまい、いつまでも恋人気分でいられないのが残念なところ。
そこで、彼は新たなる恋人候補を自殺サイトでおびき出し、さらにやってみたかった夢も叶えようとします。
愛する人とデートにお出かけ。
ショッピング、ランチでおしゃべり、青空の下でお散歩。
愛する人は死んでるけどね。さあ、どうしよう?
先ほども申しましたが、この小説は『ある一定層の秘めたる願望充足を叶えるため』の小説です。
だから、リアリティとか求めちゃいけません。
化粧をして死相を隠すとか、死体を載せた車椅子を若い人に持ち上げてもらうとか、果ては「妻(死体)」へのプレゼントとしてネックレス選びを店員さんと相談するとか。
ちょっと笑っちゃうくらいに『ありえねーよ!』という勢いのストーリーは、リアリティ不足というのは野暮の極み。だってそれは、同じ性癖の人からしたらきっと夢のパラダイス、なのかもしれませんから。
臭うのだ。死んだ人間の臭いが…屍臭がするのだ!
エスカレーターのベルトを、さらに強く握り締める。無意識に何度も唇をなめ、鼻をヒクつかせる。
臭う。確かに、腐った茹で卵のような臭いがする。
「あれっ?何のにおいだろう?」
背後にいる中年の店員が鼻をヒクつかせながら微笑む。
「えっ?あの…何か臭いがしますか?」
僕は顔を歪めて笑す返す。息苦しいほどに心臓が高鳴り、立ち続けることができないほどに足が震えている。
リアリティ重視でパラダイスを閉じてしまうのは無粋なので、主人公の幸せが消え去ることもありません。
腐敗する前の短い逢瀬ではあるものの、世の中に自殺志願の若い娘なんて、いくらでもいるし。
警察の捜査?そんな、野暮ねえ。ほほほ。
かくして親の遺産の豪邸と、その広い庭には、いくつもの土の山が作られ。
彼の『愛』の生活は続く…。
てな訳で。
ヒトサマには言えない秘密の性癖を持った方は、大石圭の小説で願望を満たしてください。
ま、リアルじゃ手を出さず、小説で我慢しとけや。