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勝田尚哉「建設中。」

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建設ゲンバ写真集。決して見ることのできない「ヘヴィーメタル・ワンダーランド」。
(「建設中。」表紙より)

こんなん、いったい誰が見て、喜ぶ本なんだろう?

図書館の特集コーナーの棚を眺めつつ、首をひねる私。
 

早速に失礼な感想を申し上げるようですが、同じ感想を抱く方は多いようで。

「こんなん、何の意味があるんだ?」
本書に掲載したような写真を見た、何人もの建設人の言葉である。
(「あとがき」より)

ビル・トンネル・駅・高速道路・空港など、巨大建造物の建設過程。内装外装と出来上がって、ピッカピカの美しい完成物、に、なる前の、建設ゲンバ。
鉄骨と瓦礫と土砂と、ヘルメットと安全帯と、寅壱のニッカポッカ。
美しくは…ないよなあ。
 

全く興味も無いジャンルの、全く美しくも無い写真集を、何故かどうしてか手に取って、貸し出しカウンターに差し出す私。
あれ、どうしてでしょう?どうして私、この写真集のページをめくっているの?

以前現場にいたとき、高密度に規則正しく並ぶ鉄筋や整然と組みあがった鉄骨を見て、美しいと思ったことがそういえばあった。それが美しいことを私は知っていたのだ。
しかし…そう思ったのは私だけ(?)、だったのだ。
(「まえがき」より)

とはいえ近年、オシャンティー女子の間で、工事現場がアツいという噂は私も聞き及んでおりまして。
知人S女が、工場夜景を見物しながら東京湾をめぐるパリピなツアーに参加したという話も耳にしております。
 

作業員の憧れブランド(?)寅壱の超超ロングをいなせに穿く鳶のお兄さんの姿に、キュンキュンするタイプの女子は、昔から一定層存在する。
そういえば昔「トビーに首ったけ」というマンガを読んだことがありますね。トビー=鳶ね。勿論タイトルは「ボビーに首ったけ」のもじりね。
 

ではこの写真集、女子向けなのか。
 

写真撮影が趣味の方にも「建設中。」は心惹かれるものがあるかもしれません。
あのね、普通のカメラで高いビルとかを撮ると、高層階ほどすぼまって写るでしょ?この写真集はアオリ技法という撮影方法を使って、水平は水平、垂直は垂直、四角いものは四角く、と、パースの狂いなく写真に写しているそうです。しかしながら私、カメラについても門外漢なので、『おぉ~っ、この技術がウンヌン』とかもわからない。
 

ではこの写真集、カメラマン向けなのか。

地を拓き、インフラを整え、まちを築く。社会規範で協調と不可侵とタブーを確立し、貨幣経済で自他の糧を得る。—(中略)—それがすなわちヒトという種だ。築く行為は直截的に摂取や生殖を行う手段ではなく、社会や規範を支えるためのものになった。きっとそうした社会を支える仕組みそのものがヒトの生態・生理なのだ。

高速道路の橋桁工事。高層ビル。ターミナル駅のプラットフォーム工事。パイプラインの溶接。羽田空港の滑走路拡張。トンネル。
全く興味も無いジャンルの、全く美しくも無い…筈の写真集が、何故かどうしてか目が離せない。何故か美しく見えてくる。
不思議なヘヴィーメタル・ワンダーランド。私の心の動きこそが、ワンダー。

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