大手商社に勤務している樋口毅と田崎里美は結婚式を挙げた。新婚旅行を明日に控え、幸せな一夜を過ごすはずだった…。翌朝、目を覚ますと、そこは真四角の“箱”の中。そこに、ファンファーレとともにピエロが現れ、言った。「アンサー・ゲームへようこそ!」ゲームは簡単。出された問題に、二人の答えが一致すればOK!しかも問題は、二人に関係するものばかりで、十問中、七問正解すればゲームクリアです。それではいきましょう。第一問はこちら!『あなたたちが最初に会ったのは、いつ、どこで?』閉じ込められ、極限状況で試される男と女。愛か打算か裏切りか、究極の心理ゲームが今、開幕!
(「BOOK」データベースより)
毎日新聞1面の新刊案内をチェックしたら、「リカ」の五十嵐貴久が久方ぶりにホラー小説を出すというのでウッキウキで本屋へ直行。
読んでみたら、ホラーというよりサスペンス?でありました。でも結局は、ホラーなのかサスペンスなのかオカルトなのか心理小説なのかラブロマンスなのかは、不明。
……ラブロマンスでは、ないか。
ホラーでもサスペンスでもどっちでも良いんだけど、とどのつまりは「怖い」小説です。
「アンサーゲームへようこそ!」
安っぽいファンファーレの後、ピエロが口を開いた。毅はその顔を睨みつけた。
分厚いメイクのため、人相や年齢はわからない。声にもエフェクトがかかっていて、性別も判別不能だ。
誰なんだ、と毅はモニターを保護している厚いガラスを叩いた。
平穏な日常から突然に、不可解でスリリングなゲームに参加するハメになってしまう物語。
何故か知らねど、フィクションの世界では最近流行ですよね。
ドラマや映画で言えば『ライアーゲーム』漫画で言えば『カイジ』?
ゲームとの中でも、もっと積極的に殺し合うデスゲームだったら『バトルロワイヤル』とか、やったことないけどゲームの『ダンガンロンパ』とか。
流行している——つまり売れる。
ジェフリーアーチャーばりのビジネスマン作家な五十嵐貴久が、この機を逃すはずもない。
もーう五十嵐さんったら♪売らんかな精神で書いちゃったわねこの小説!好きよ、大好きよそういう貴方が。
タイムアップ、という声と共に画面が切り替わり、ピエロの姿が映った。
「お二人の回答が出揃いました。それでは、オープン・ジ・アンサー!」
モニターに里美の姿が映し出された。手にフリップを持っている。目が左右に泳いでいた。
フリップに記されていた文字を見つめて、毅は目をつぶった。そこには『6年前の入社式』と書かれていた。
「ミスマッチ!」
残念でした、とピエロが机を叩いた。哄笑がいつまでも続いた。
結婚式が終わった夜、ヘトヘトに疲れた新郎新婦の毅くんと里美ちゃん。
ホテルのスウィートでシャンパン飲んで、さあ明日は新婚旅行に出発だ!と、眠りについたら。
起きてみたら不思議な部屋にひとりきり。隣の部屋(コンテナ)に配偶者はいるようだけど、ひとりきり。
モニタ画面の映るピエロ司会者曰く、これから二人は“お互いの愛を確かめ合うゲーム”を始めなくてはならないようです。
先ほど名前を挙げたいくつかのフィクション作品の多くは、主人公はおおむね普通で平凡な人格だという点が共通しています。
(カイジは違うかな)
ですが「アンサーゲーム」に登場する二人は、揃いも揃って、うーむイヤな奴ら。
将来有望のエリート商社マン毅くんと、同じ商社勤務でミスキャンパス、女子アナにならなかったのが不思議なくらいのキラッキラ女子、里美ちゃん。
美男美女カップル、かつ、美男美女を自認したカップル。
『俺達人生の勝ち組さ!』と言わんばかりで、ピノキオよりも鼻がとんがらがっています。
考えてみれば彼らはゲームの巻き込まれ被害者として同情されるべきなのに、最初から最後まで共感できるところがありません。
これは勝ち組カップルに対する私のひがみでしょうか。
いや、どうやら私だけではないらしい。
誰からも羨まれるべき勝ち組カップルに対しては、ゲームマスターもイジワルをしたくなるようだ。
目の前にペットボトルがある。また喉が大きく鳴った。
手が激しく痛んだが、突き指をしたようだ。はめ込まれているガラスはかなり厚いことがわかった。割ることはできない。
—中略—
畜生と叫んだ時、それでは五問目に参りましょう、とピエロが言った。『ペットボトルは一本しかありません。あなたはこの水をお相手に譲りますか?』
「アンサーゲーム」のゲームで出題される問題は全部で10問あるんですが、この問題がすっげえイジワル。
二人の心を乱すべく、最高のタイミングで最悪のポイントを突いてきます。
二人は別々の部屋(コンテナ)に幽閉されているのでね、互いで相談をすることができません。
それでも、お互いが真実愛し合って信頼していれば、互いの答えは一致するはず…だと思う?
そんな訳がない。
そもそも、エリート臭プンプンで自己愛MAXの二人組。ある意味お似合いのカップル。
愛と信頼?そんな美しい心があれば、囚人のジレンマなんて問題も起こらないでしょうねえ。
最後のディスカッションの時、彼はこう言った。
「どんな問題が出ても、イエスと答えろ。おれもそうする。それだけでマッチングが成立する」
うなずいたが、違和感があった。なぜ彼は、あそこまで強い口調で命令したのだろう。
—(中略)—
彼はあたしのことを信じていない、と里美は改めて理解した。結婚する相手のことさえ信じようとしない。そんな男。
どんな問題が出てもイエスと書け、と彼は言った。それがアンサーゲームの必勝法だと、あたしもわかっている。
マッチングすることだけが正解のアンサーゲームにおいて、絶対的な攻略法はそれしかない。
ただし、それはお互いへの信頼感があってこその話だ。あたしのことを信じていない男を、信じていいのか。
モニターに目をやると、00:21という数字が見えた。
最後の問題で、二人は回答をマッチングさせることができるのか。
二人は「アンサーゲーム」の勝者になれるのか。はたまた、敗者となったらどうなるのか。
そして、このゲームの主催者は誰なのか。人間なのか、違う存在の者なのか。
それは、この本を読めばわかります。
読み終わった私がまだわからないのは、五十嵐貴久が「アンサーゲーム」を書いた理由。
ビジネスマン作家がマーケティングを重視して流行モノに手を出したのか。
勝ち組カップルを思う存分苦しめるS気質を満足させるために書いたのか。
読む前には前者だと思っていたのですが、読後の感想は…後者な気がしてきたんですが、さて五十嵐さん、どっちでしょう?