東京都下、武蔵村山市で占い師夫婦と信者が惨殺された。音道貴子は警視庁の星野とコンビを組み、捜査にあたる。ところが、この星野はエリート意識の強い、鼻持ちならぬ刑事で、貴子と常に衝突。とうとう二人は別々で捜査する険悪な事態に。占い師には架空名義で多額の預金をしていた疑いが浮上、貴子は銀行関係者を調べ始める。が、ある退職者の家で意識を失い、何者かに連れ去られる。
(「BOOK」データベースより)
ちょーアッタマきー!
ちょーアッタマきーなのよ星野!あいつ!マジむかつく!死ねよ!
と、読者のヤンキー魂にもれなく火を点ける、「鎖」の登場人物・星野警部補。
あいつマジむかつくぜ。
「鎖」は、音道貴子刑事を主人公としたシリーズの2作目です。
第1作は「凍える牙」。
登場人物の細かな設定までキッチリ把握しておきたいキチントさんは、「凍える牙」からお読みあそばせ。知らない名前もあるけどまあ何とかなるさのズボラさんは、「鎖」から読んでも全く問題なし。ちなみに私もズボラさん。君と僕はナカーマ。
登場人物のカブりはあれど、小説の印象は「凍える牙」と「鎖」では、かなり異なります。
「凍える牙」では、殺人道具として育てられたオオカミ犬と、捜査一課のバイク乗り“トカゲ”である音道貴子が、夜の高速道路を疾走する、躍動感に溢れるクライマックスシーンが印象的な小説。
対して「鎖」は、貴子がオートバイで疾走するどころか、小説のほぼ4分の3の間ずっと鎖につながれて監禁され続けます。
「凍える牙」のように生き生きとした貴子の姿は全く見られません。
でも、それがすなわち面白くないってことじゃ、ないのよ。
もしかすると、自分はもう死んでいるのではないだろうか。闇の中で、貴子は考えていた。静寂が、身体の奥まで染み込んでくるようだ。目は開いていると思う。それなのに、何も見えず、何も聞こえなかった。それどころか、全身が強張って、手足の自由がまるできかない。声を出してみようかとも思うが、口の中に何か入っていて、舌で感じるその感触が、無闇に声などあげるなと伝えている。
——-どこ。
自分は一体、どうなってしまったのだろうか。
どうして貴子が監禁されることになったのかというのは、まあサラっと流しておいて。
とある事件を捜査している内に、過去のひったくり事件の被害者と偶然に出会い、その被害者の女性の家に招かれて飲んだジュースに薬が入っていて…という流れです。
実はその被害者の女性が、とある事件の犯人の関係者だったもんで、自分が貴子に目をつけられていると勘違いしたために起こった拉致監禁事件。
貴子ちゃん、あなたあんまりにも無防備じゃなくって?
事件の捜査中にのんびりお茶なんて飲んでいてよろしくって?
なーんてお説教ができないのは、その状況を作り出した要因が、ひとえにクソ星野にあるからです。
ごめんクソとか言って。お下品だわ。でもマジクソなの。仕方がないのよ星野だから。
貴子が「鎖」でコンビを組むことになった星野警部補は、貴子よりも階級が上なので上司にあたります。
でもねえ、こんなのを昇格させちゃって良いの日本警察?!そもそもこんなの採用しちゃう警察ってどこまで人材不足?!という、役立たず&やる気スイッチOFF&ジコチュー&自意識過剰の、性格悪しバカコンプリートです。
仕事は出来ないが『全ての女はオレに夢中なのさベイビー』な勘違い男の星野。
貴子にコナかけてすげなく降られ、彼の傷ついたプライドと脆弱ハートによって貴子の仕事には多大な支障が生じてきます。
ろくに口もきかなくなるしね。持ち場を離れて居なくなっちゃうしね。貴子にイジワルするための労だけは惜しまないしね。
周囲の捜査仲間のサポートはあれど、なにせ期間限定とはいえコンビのふたり。しかも男の方が上司。ムッキー!とストレスフルな日々が続きます。
しかし大体ねえ、他の捜査員も星野が「あいつは女グセが悪い」と知っているんだから、どうしてそういう奴のコンビに女性を持ってくるかなあ。采配ミス?それとも皆こんななの?
ストレスMaxでイライラと疲労がピークに達していた貴子。やっぱり星野のイジワルによって単独で遠方まで行かされ、そこで犯人の罠にかかる訳です。
だから監禁事件の元凶は星野にあるの!
しかもアイツ、貴子が行方知れずになった経緯をごまかして、捜索を遅らせるの!
マジ星野むかつくぜ。前作「凍える牙」で登場した、女性蔑視の固まりのハゲチビデブ親父の滝沢が、こっちではすっごく良い人に見えるくらい。
いや本当に「鎖」の滝沢さんは良い人に変貌してるんですけどね。同じ人物とは思えませんわ。
熱海の廃旅館に監禁されて南京錠と鎖で身動きをとれなくされて、飢えと乾きと暴力、レイプの危機で心身ともに衰弱する貴子に、滝沢は携帯電話で励ましつづけます。
「俺らがついてる。何があっても、救い出すからな」と。「俺らを信じろ」と。
なのに
皇帝ペンギンのように腹を突き出して歩く、嫌味で不潔たらしい中年の刑事。人を小馬鹿にして、女というだけで、とくに口もきいてくれなかった親父だ。あの滝沢が、どうしてこんな場所にいるのだろうか。それにしても、どうして滝沢なのだろう。
うっうっうっ貴子ちゃん。前作の経緯を考えれば無理もないけど、滝沢さんに対して冷たすぎるわ。今回の滝沢さんナイスな親父よ。頑張っているわよ。そりゃハゲチビデブ親父には変わりないけど、見た目のおよろしい星野に比べたら100倍マシでしょう~?
小説全体のほぼ70%を占める貴子の監禁は、正味7日間。
貴子側の、監禁の苦痛と恐怖の7日間。そして、滝沢側の、貴子を救い出すべく奔走する7日間。
並行して話が進んで行きます。
途中ではくだんのクソ星野がノコノコと現場に現れて「応援に」とかほざきますけどね。ヒーロー滝沢に叩きのめされて読者としては溜飲が下がる場面もありますが、役立たずであることに代わりはなし。
監禁されている旅館内では、犯人の女である加恵子の過去が明らかになったり、そもそもの事件が謎が解明されたりと、そりゃそこそこ色々なことが起こりますが。
あくまでも「鎖」のメインは貴子の監禁事件なので、そこらへんはまあスパイス程度で。
旅館に警察が突入するタイミングを教えるために、貴子が合図の言葉を発します。
その合図の言葉とは何か、は、実際に本を読んでご確認ください。
見当つきそうな気もするけどね。でも、その言葉を聞いて滝沢がぞくぞくしたように、読者もぞくぞくする興奮を味わえること請け合いよ。
しかし、いやマジ、星野むかつくわー。
この「鎖」は、何よりも星野のクソっぷりにとどめをさします。
小説の最初から最後、ほんとうにラストシーンまで読者は星野に憤りまくり。
ちょーアッタマきー。ちょーアッタマきーなのよ星野。あいつ。マジむかつく。死ねよ。
と、読んだあなたの心に秘めたヤンキー魂がボウボウと燃えさかること請け合い。
ごめん品がなくて。かつ攻撃的で。でも仕方がないのよ星野だから。
ホントあいつ、マジむかつくぜ。