「あなたのご両親は、あなたを売ることにした」女子大生・川上春菜は、父親の使いで訪れた横浜のビルで、突然告げられた。自分は売られ、間もなく「奴隷市場」で競りにかけられるというのだ。ビルの一室に拘禁され、絶望にくれる春菜。だが、仕入れられていたのは、彼女だけではなかった。女たちを待ち受けていた壮絶な運命とは?おぞましくも美しい禁断の書。
(「BOOK」データベースより)
はい、ある秘かな欲望を胸に刻んでいる殿方。お待たせいたしました。
貴方の特殊性癖をおおいに満足させる、大石圭の時間がやってまいりました。
今回、叶えられる願いの種類はというと…タイトルを見ればお解かりですよね?
「高慢な女を跪かせたい」
「女を奴隷にして売り買いしたい」
ついでに言うと、この小説ではもうひとつ「性技の達人であるロリータ美少女と甘やかな交流を持ちたい」という、ひとつぶで二度美味しいグリコアーモンドキャラメルのようなニッチな願望充足もオマケでついてきます。
特殊性癖を持っていらっしゃらない一般の方々には、えれぇ胸クソ悪ぃ単語の羅列であることは理解しております。
しかしながら、良いにつけ悪いにつけ、そういう嗜好を持った方というのは一定層存在するようでして。
フィクションの世界で秘められた願望が満たされるというならば、それはそれでリアル犯罪の抑止力になるのではないかと…と、大石圭の作品をご紹介する時には、多方面に気を使い言い訳がましくなっちゃうんです、ハイ。
「彼女は川上春菜といいます。都内にある私立大学の英文科に在籍中の女子大生です。見ての通り、スタイル抜群です。英語が堪能で、将来は国際線のキャビンアテンダントになるのが夢でしたが、父親が経営していたデザイン事務所が立ち行かなくなり、家族のために売られることになりました」
司会の男は軽快に喋り続けていた。けれど、恐怖と羞恥に悶える春菜には、男の言葉はほとんど理解できなかった。
「処女ではないようですが、男性経験は多くありません。ぜひ、みなさまの手で、この19歳の女子大生に厳しいしつけを施してやってください」
司会の男はそう言ったあとで、彼女の初値を告知した。その額はかなりの大金ではあったが、都心の一等地にマンションの部屋を買えるほどではなかった。
「女奴隷は夢を見ない」の主人公は、上記で競りにかけられている女子大生さんではありません。
主人公は、ヨコハマ・スター・トレーディングの代表取締役、高野さん。社名の通りモノを売り買いする企業ですね。何を売り買いしてるのかというのは周知の通り。
“高野”というのは本名ではありません。背が高いから、高野さん。他にいる3名の社員は、身体が大きいから大野さん。小柄な人は小野さん。中くらいの人は中野さん。
高野さんの亡母であり、ヨコハマ・スター・トレーディングの創業者だった青野さん(奴隷商人は世襲制か)は、顔色がいつも青かったから青野さん。
日本の苗字って、便利ね~。
異国情緒溢れる横浜の、横浜港の埠頭先端にある旧 通関事務所。古いレンガ造りの建物に、横浜中の奴隷商人達が集結して奴隷市を開催します。
街の灯りがとても綺麗ねヨコハマ…って、横浜は恐ろしい街や!
今回ヨコハマ・スター・トレーディングが出品するのは計4名。
前述の女子大生、川上春菜さん。
29歳の元モデル、薄井樹里さん。
東欧から買い付けてきた、22歳のナターシャさん。
そして、会場を横浜市内の大邸宅に移して翌日に開催されるVIP専用市に出品予定の、盲目の美少女サラ。年齢不明。
インドだかパキスタンだかに生まれ、幼い頃からムンバイの売春宿で来る日も来る日も男女の営みに関する技術を叩き込まれた、性技の達人であります。
この4名の女性たちが、買い付けられてから奴隷市に出されるまでのおよそ一週間。
彼女たちに何が起こったか、ヨコハマ・スター・トレーディングの面々と、代表の高野さんに何が起こったかが描かれています。
「何が起こったか」とは言っても、特に大きな事件事故が発生するという訳ではありません。
言うなれば、お仕事紹介モノと申せましょうか。
ペットショップの店員や、家畜の仲買人の職務を覗き見る、と想像して頂ければ分かりやすいでしょうか。
ペットショップで扱われる動物も、家畜も、奴隷商人が扱う奴隷も、基本、商品ですから。
そう。若いサラブレッドを買おうとしている馬主や調教師のように……あるいは市場でマグロの値打ちを判断している魚問屋のように……もしくはペットコンテストの審査員のように……僕は女に冷徹な視線を向けている。
この女はいくらで売れるだろう?売る時にはどこをセールスポイントにすればいいのだろう?
僕は奴隷商人なのだから、ほかに考えることなどない。
とはいえねぇ、読んでいるこっちは普通の嗜癖を持った一般女性なので、売られてきた女性達を考えると身もだえしてしまうところです。
女子大生の春菜さんについても然りなんですが、特に2番目の、元モデルの専業主婦 薄井樹里さん!
たった二年でダンナに売り飛ばされ、当然ながら反抗するも『教育』され、未来に一筋の光明を見出すも…あうあぁぁっ!それーっ!?よもやの、そういう結果になっちゃうのーっ?!
と、心がポキポキ折れる結果が用意されています。ただでさえ過酷な奴隷生活が待ち構えているってのに、アレはねーべ、アレは。
ある種の暗い欲望を持った方々にとっては、非常に充実した良書でございましょう。
逆に、通常の嗜好を持った一般の方々には、えれぇこと胸クソ悪ぃ悪書でございましょう。
私も一般的な、ごく普通の趣味嗜好の人間である筈なんですが、なぜかこの「女奴隷は夢を見ない」は定期的に再読したくなっちゃうんですよ。
自分の方向性が、自分でも心配。