富豪の若き一人娘が不審な事故で死亡して三カ月、彼女の遊び仲間だった男女四人が、遺族の手で地下シェルターに閉じ込められた。なぜ?そもそもあの事故の真相は何だったのか?四人が死にものぐるいで脱出を試みながら推理した意外極まる結末は?極限状況の密室で謎を解明する異色傑作推理長編。
(「BOOK」データベースより)
限定された空間内でひたすら会話に終始するミステリといえば、いまでは石持浅海がお約束ですね。
しかしそのおよそ20年前。石持ミステリの源流とも言うべき(言わないかな)狭い室内のミッチミチ謎解きミステリが存在するのです。
岡嶋二人の「そして扉が閉ざされた」→石持浅海の「扉は閉ざされたまま」
すいませーん。ドア、閉じっぱなしですよー。
雄一は、自分の周りを見回した。
千鶴の言う通りだ。窓のない彎曲した鉄の壁、気密ドア、吊りベッド——ここは核シェルターの中だ。中を見せてもらったわけではないが、ここがまさしく核シェルターに違いない。
「だとすると……」と、雄一は千鶴を見返した。「俺たちは、あの別荘まで連れて来られたのか」
お金持ちは自宅に核シェルターを設置して、イザという時に自分の命を守れます。
ついでに、自分の娘を殺した(かもしれない)娘の友人達を誘拐して、核シェルターに閉じ込めることもできます。
容疑者4人。狭い空間で話し合ってもらって、一体誰が娘を殺した犯人なのかをあぶり出して頂こうと。いや、なかなか幅広い用途をお持ちですね、核シェルターって。
殺された娘、咲子。
核シェルターに閉じ込められたのは、咲子の彼氏で主人公の雄一。咲子の友人である鮎美と千鶴。鮎美の婚約者の正志の4人。
自動車事故で死んだとされている咲子は、実際はこの4人の内の一人に殺された。さて、いったい誰が殺した?
とか何とか言いながら、このブログでは思いっきり犯人ネタバレしちゃいましょう。
何故かというとこの小説は、ラストで“犯人”が明かされて、それを知った後で2回目の読み返しこそが面白いのですよ。
初読の謎解きからお楽しみになりたい方は、この下は読まないままお戻りになることをおすすめ致します…。
はい、じゃあ犯人を明かすよー。いいかーい、いいねー。
咲子を殺したのは主人公の雄一です。あ、でもアクロイド的な叙述トリックではありませんよ。
雄一が咲子を突き飛ばした際に、当たりどころ(刺しどころ?)所が悪くて、不運にもお亡くなりになってしまったという訳です。
咲子が死んだことに気付かないまま現場を立ち去ってしまった雄一。
そこに偶然居合わせた鮎美は、咲子を殺したのが雄一だと勘違い。雄一LOVEの鮎美は、彼を守るために死体をシェルターに放り込んで隠蔽しようとします。
さらに、そのシェルターに現れたのが正志。正志の方は、鮎美が咲子を殺したとこっちも勘違い。鮎美LOVEの正志は、彼女を守るために死体を自動車に乗せて海に落とします。
雄一からしたら、彼女と喧嘩して家を飛び出している間に、当の彼女が自動車事故で死んでいるんだから、まさか自分が彼女を殺したとは露とも思わない。
雄一の思い:アイツ事故で死んだ筈なのに、えっ、これって殺人なの?!
鮎美の思い:アタシのせいで雄一くんが咲子を殺しちゃった!雄一くんを守らなきゃ!
正志の思い:鮎美ちゃんが咲子を殺しちゃった!未来のボクの妻を守らなきゃ!
関係者の思惑がからんで、死体があっちに行ったりこっちに行くのはヒッチコックの「ハリーの災難」と同様。つまりこの話は「咲子の災難」か。
自分が殺してるっていうのにお気楽な雄一と、本当は犯人じゃないのに戦々恐々の二人。その種明かしを知ってから読み返すと、これがまた、面白いんだなあ。
全部ネタバレしちゃうのも恐縮なので、彼等が無事に核シェルターから脱出できたのかどうかは、記述を差し控えておきましょう。
ただひとつ分からない謎は、咲子のママンがどうやって成人男女を自宅から別荘の地下シェルターまで運んだか。これ中年から初老にかけてのマダムには結構な体力仕事よ。
母は強し、の働きっぷりこそが、実は最大のミステリー。