「死刑はやむを得ないが、私としては、君には出来るだけ長く生きてもらいたい」(死刑判決言い渡しの後で)。裁判官は無味乾燥な判決文を読み上げるだけ、と思っていたら大間違い。ダジャレあり、ツッコミあり、説教あり。スピーディーに一件でも多く判決を出すことが評価される世界で、六法全書を脇におき、出世も顧みず語り始める裁判官がいる。本書は法廷での個性あふれる肉声を集めた本邦初の語録集。これを読めば裁判員になるのも待ち遠しい。
(「BOOK」データベースより)
この本は、タイトルで損をしているような、いないような。
昔「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」(北尾トロ著)という本が話題になったことがありました。漫画化されたり映画化されたり。
裁判の傍聴マニア(なるものが世の中には多数存在するらしい)の人が軽~いノリで民事・刑事事件の裁判を野次馬チックに紹介した本ですので、内容が不謹慎だという声も多数あがったらしいです。
不謹慎といっちゃ不謹慎極まる本ではありましたが、裁判という一般的にはなじみのない場所にスポットを当てて、身近な存在に感じさせてくれたのも事実。
「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」を読んで『俺も傍聴に行ってみるかな…』と一瞬思った人も多いのでは。かくいう私も右に同じ。
でも結局、今に至るまで行ったためしがありませんー。思っただけー。
この「裁判官の爆笑お言葉集」も、日本全国の裁判所をめぐるマニアさんが、裁判中に聴いた判事の発言をピックアップした“裁判お楽しみ本”です。
でもねえ、その中身は「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」とはちょっと違います。
題名にあるような“爆笑”の発言はどちらかというと少なく、結構ね、しみじみりぃ。裁判官といえども人の子なのだなあ、という人間味を感じることができます。
死刑はやむを得ないが、私としては、君には出来るだけ長く生きてもらいたい。
「裁判官の爆笑お言葉集」は、右ページに当該のお言葉と裁判の概略、左ページに長嶺超輝氏の解説が記載されています。
上記のように一見矛盾する言葉の意味は、左ページを読まないとわからない。だって死刑を言い渡した張本人が「長生きしてね☆」って変でしょ?
左ページは本を読んだ人のお楽しみとして、このブログでは裁判官の面白げな発言だけを引用しましょう。
しっかり起きてなさい。また机の角で頭打つぞ。
交通事故裁判での、被害者の命の重みは、駅前で配られるポケットティッシュのように軽い。遺族の悲嘆に比して、加害者はあまりにも過保護である。
刑務所に入りたいのなら、放火のような重大な犯罪でなくて、窃盗とか他にも……。
暴走族は、暴力団の少年部だ。犬のうんこですら肥料になるのに、君たちは何の役にも立たない産業廃棄物以下じゃないか。
傘の先端が尖っている必要があるのかどうか、皆さんも考えてみてください。
変態を通り越して、ど変態だ。
読み進めていくうちに段々と、発言した裁判官が“罪と罰のバランス”に苦悩している様が見て取れます。
『量刑相場』という言葉があるらしいのですね。例えば死刑判決を下すのは、被害者が3名以上の場合が相場だとかね。相場っつーのもおかしな話ですが。
件の犯罪がいかに卑劣で残忍なものであっても、被害者の数が単数である場合には極刑を科することが難しい。逆に、犯罪を犯したのも已む無しと同情できるような状況であっても、行為に対して極端に軽い判例を作る訳にはいかないという、事件と量刑相場の板ばさみになっているケースがままあります。
どうやらその板ばさみの苦悩が、裁判官の各種発言につながっているようです。
犯人が人を殺すのは簡単だが、国家が死刑と言う判決を出すのは大変だということです。
皆さん、納得はいかないと思いますが、そういうことです。
普段、裁判所という場所にはなじみのない一般人からしたら、判事なんてピッチングマシーンのように機械的に判決をバシバシ出すだけの存在かと思いきや、それぞれの裁判において“人間”が向き合っているんだなあ、という感想でした。
やっぱりこの本、タイトルで損してるよなあ。でもこういうアオリのあるタイトルじゃなかったら、そもそも手に取られないだろうしなあ。難しいよなあタイトル付けって。
「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」と同様、「裁判官の爆笑お言葉集」を読んで、ちょっと裁判の傍聴に行ってみたくなった私ですよ。
でも多分きっと行かない。思うだけー。