苛酷で熾烈。嫉妬に悶え、男に騙され、女に裏切られ。ここは、美を磨くだけじゃない、人生を変える場所よ。並河由希の転職先はミス・ユニバース日本事務局。ボスは、NYの本部から送り込まれたエルザ・コーエン。ブロンドに10センチヒール、愛車ジャガーで都内を飛び回り、美の伝道師としてメディアでひっぱりだこの美のカリスマだ。彼女の元に選りすぐりの美女12名が集結し、いよいよキャンプ開始。たった一人が選ばれるまで、運命の2週間。小説ミス・ユニバース。
(「BOOK」データベースより)
できればラスト、あと5分。
あと5分だけ時間をぶった切って欲しかった。
「ビューティーキャンプ」の結末でそう思うのは、私だけでしょうか。
ミス日本が決まらないままに完結して欲しかったなあ。栄冠を獲得した○○ちゃんに文句がある訳ではないのだけれど。
さて。
美人好きのマリコちゃん、今回の題材はミス・ユニバース日本大会の舞台裏です。
「ビューティーキャンプ」とは、ミス候補が選考会の直前に泊まりこみで特訓を行う合宿のこと。この小説では日本事務局の通訳係 由希の視点から、ビューティキャンプとその参加者たち、そして、ミス請負人の責任者エルザの姿が描かれています。
いやー面白い面白い。知らない世界を覗き見る楽しさってのもありますが、「プラダを着た悪魔」のミランダ的な上司エルザが面白い。
でも、エルザはミランダほどには横暴ではありません。強烈な独裁者ではあるけれど、自分目的のワガママは、読んでいてさほど感じません。ただ、まあ、ケチだというのは否定しませんが、ミランダみたいに『来週出版されるハリーポッターの最新刊を今すぐ持ってこい!』なんて無茶は言いませんよ。
そして、ミス請負人のエルザ(ケチ)の下で美の特訓をする、12名の候補者たちもそれぞれに面白い。
モデルもいるし大学生もいる。楚々とした和風美人もいれば、欧米人好みの華やかな美人もいる。
ダイエットを命ぜられるぽっちゃりさん(比較的)もいれば、胸が無さすぎて豊胸手術を命ぜられるガリガリさん(比較的)もいる。
彼の反対にあって代表を降りたいと言い出す人もいれば、キャバ嬢時代の借金が発覚する人もいる。
テレビ取材の影響で候補者同士のイザコザが生じたり、日本代表を選考するオジサンたちの思惑に振り回されたりもする。
んもう、エルザさんも大変っすよ。お仕事大変なんだから、ちょっと(かなり)ケチなくらい大目に見てあげても良いと思うのよ。
ビューティキャンプのあれこれや、ミス日本選考会のあれこれについても興味深い「ビューティキャンプ」ですが、この本の中で一番興味深いのは
“自分の美しさを前面に出すことは是か非か”の問題です。
酒井順子の「私は美人」でもありましたが、美人が自分を美人と認めてしまってはいけないような風潮が、この日本ではあります。
たとえば、作中で『エルザのフェミニズム的な考えと、ミス・ユニバースを支援する行動は矛盾しないか?』と、由希がエルザに問うた際のエルザの返答。
「手っ取り早く言うとね。美しさというのは、不当に貶められている、というのが私の考えなの」
「貶められているですって」
「そうよ、世の中は仕事で成功した女や才能のある女は手放しで称賛するわ。それは自分が努力して勝ち取ったものだと考えられているからなの。もし男が近くにいる美人を誉めたたえてごらんなさい。たちまち他の女たちから大ブーイングよ。女を外見だけで判断する、頭が空っぽの人間だと思われるわね。そう、美しいということは素晴しく得することなんだけれども、その得する、ということは取り扱いにとても注意のいるものなのよ」
で、可愛く生まれついたり、美人に生まれついた人の中には、その美しさが人生において必ずしも得をしない場合もある。
美人に生まれたからって、何もいいことなかった。嫌なことの方が多かったって言ったら、女の人たちに石投げられるわよね。ふざけんなって。だけどこれは本当のことなの。でも誰も信じてくれない。由希さんにも信じてくれなんて言わない。エルザは私に言ったのよ。
「あなたが日本代表になり、そして世界一になったら、あなたが美しく生まれた意味がきっとわかるわ。だから全力を尽くしなさい」
って。私はそれを知りたいの。そうでなければ、少女の頃に無視されたり、いじめられた意味がわからない。それから私はこの先、どう生きていっていいのかわからない。だから私はどんなことをしても日本代表になって世界大会に出場したいの。
うんうん、わかる~。(嘘)
美人ってだけで頭からっぽに見られたり、スカしてるって思われたり、美人も色々と大変。
その美人たちが、自分を認め、自己確立していく姿もまた「ビューティキャンプ」の見所です。
だからねえ、やっぱりこの小説は5分前に終っていたほうが良かったと思うのよマリコちゃん。
美人に生まれた意味をさぐるために全力を尽くした12人の、誰が頂点に立ったのか。
頂点に届かなかった11人の敗北感は、できれば見ずにすませたかったわ。