新米巡査の高木聖大は、世田谷区等々力の交番に赴任した。大事件などない閑静な住宅街で、不眠症のおばあさん神谷文恵の夜の話し相手が聖大の目下の役割だった。ところが、ひょんなことから、聖大は指名手配中の殺人犯を逮捕するという大手柄を挙げた。以降、文恵の態度が微かに変化する。文恵を含む七人の老人グループが聖大に近づいてきた…。人気沸騰中、聖大もの四編を収録。
(「BOOK」データベースより)
男女の区別なく、制服フェチという嗜好はよくありがちでして。
かくいう私 さくらも制服にはきゅんきゅんくるタイプです。警察官、消防隊員、自衛官、船長その他諸々。白衣は制服じゃないけど萌えポイント高し。僧衣まではマニアックにすぎるか。
しかしながら、制服を着て仕事をしていても、その中身は普通の人間。誰しも同じ。
イマドキの若人が警察官の制服を着たら、こんな感じなのかしらね~。という感想の「駆けこみ交番」です。
「駆けこみ交番」は「ボクの町」につづくシリーズもの2冊目です。
興味のある方は「ボクの町」からお読みあそばせ。
でもこっちから読んでもさほど問題ありません。たまにちょこちょこと「ボクの町」時代のエピソードが登場しますが、そこらへん読み飛ばしちゃっても大丈夫w
で、共通する主人公は高木聖大クン。「ボクの町」では警察学校時代のお話で、この「駆けこみ交番」は、聖大が警察学校を卒業して配属された世田谷区内の交番が舞台となります。
聖大クンはイマドキの若人。警察手帳にプリクラ貼って怒られちゃうようなイマドキ君。
警察手帳にプリクラ貼っちゃいけないんですね。知りませんでしたよ私。
イマドキの若人なんで、仕事が『たりーな』とダラけたり、やる気のない先輩にプープー文句言ったり、管内の平穏よりも自分の彼女探しの方が気になってしまったりする、まあ、いわゆる普通のオトコノコ。
でも、そんなイマドキの若人であっても、実は結構真面目に見回りに行ったり、虐待の可能性がある子供の話を聞いて熱くなったり、ベテラン刑事の背中に憧れを抱いたりする、しごくまっとうなオトコノコでもあります。
良い所もあったり、悪いところもあったりするのが、普通のニンゲン。
普通のオトコノコが、警察官のお仕事をしながらゆっくり成長していく姿は、とても魅力的です。
「登場人物に冷たい作者No.1inNIPPON」の乃南アサ(さくら勝手認定)にしては作者の視線が優しい。乃南アサも聖大クンのこと好きなのね。私も好きよ。
そして、「駆けこみ交番」には主人公がもうひとり。ひとりじゃなく7人。
それが、等々力のマンションを拠点に活動する『とどろきセブン』
人生のベテランであるシルバー世代が、世直し隊として活躍する…といったら、最近では有川浩の「三匹のおっさん」が有名ですね。
島田荘司の「ひらけ!勝鬨橋」もその仲間に入れてあげたいところですが、あんまり人気なくって悲しいわ私。
上記に比べて『とどろきセブン』の面々は、世の不正を正すべく行なう活動については、もちっと影に潜んで、もちっと狡猾であります。
やっぱり「登場人物に冷たい作者No.1inNIPPON」の乃南アサ。人の意地悪い側面を書くのがお上手。
「駆けこみ交番」の中では聖大クンが表だって書かれているので、『とどろきセブン』の活動は暗喩程度に抑えられていますが、私としては『とどろきセブン』の世直し活動をもっと読みたいものだわと切望してなりませぬ。
意地悪だ狡猾だなんだと言いつつも、だってやっぱり乃南アサなんですもの。乃南アサのイジワルな目線で書かれた小説を、あなただって読みたいでしょう?
なのでここは是非是非、乃南アサ先生!聖大クンのシリーズ3冊目と、『とどろきセブン』を主役に据えた新作のご執筆をお願いいたします!
聖大モノはさわやかに、『とどろきセブン』はいじわるく、いじわる~く、ねっちりとお願いいたしますですハイ。
ああそういえば、思い出したことがひとつ。
さくらがまだハタチそこそこのOLさんであった頃、好きだったインディーズ系バンドのライブを観るためにライブハウスに行ったのですよ。
その時は初見のライブハウスだったので、駅からの道がわからず、交番で道を尋ねました。
「ライブっすか~?なになに、○○?知らないな~、有名なの?こーいう系が好きなの?」
チャラい!チャラいよお巡りさん!
そのチャラさとおしゃべりで制服フェチの夢をちょっと壊した、あの若きお巡りさんは、もしかしたら高木聖大だったかもしれないと、今にして思うのであります。
もしかするとね。
聖大くん、あの時は道を教えてくれてありがとう。