パン職人を目指して日々精進する綾香に対して、芭子はアルバイトにもなかなか採用されない。そんなある日、ビッグニュースが!綾香が商店会の福引きで一等「大阪旅行」を当てたのだ。USJ、道頓堀、生の大阪弁、たこ焼き等々初めての土地で解放感に浸っていた彼女たちの前に、なんと綾香の過去を知る男が現れた…。健気な女二人のサスペンスフルな日常を描く人気シリーズ第二弾。
(「BOOK」データベースより)
台東区谷中に住む二人の“ムショ仲間”芭子&綾香シリーズの二冊目です。
『ズッコケ新米巡査??』高木聖大くんファンの皆さんも安心してね!聖大クンのズレっぷりも相変わらずよ⭐
前作の「いつか陽のあたる場所で」では、ウジウジメソメソで生活力のない小森谷芭子ちゃんでしたが、本作ではようやっと運気が上向きに転じ始めます。
一番の原因は、自活の目処が立ってきたことにあるでしょうか。なかなか仕事が決まらなかった芭子ちゃんも、パートで勤めだしたペットショップで芭子手作りのペット洋服を売り出すようになってから、徐々に収入を得られるようになってきます。
米の炊き方ですら知らなかった芭子ちゃんが、どこで洋裁の才能を身につけたのかって?そりゃあ、ムショ内での刑務作業ですよ。
7年間ひたすらにミシンをかけ編み物をし、洋服を作り続けた芭子さん。型紙起こしから仕上げ加工に至るまで、出所までの間に洋裁のノウハウは一通り学んでおりました。
いやー、芸は身を助くって本当ですね。しかし刑務作業の中で型紙起こしからやるかしら…とか横やりを入れちゃいけないですね。
最初はパート先のペットショップの店内に商品を数点おそるおそる置いていたのが、店内に芭子ちゃんブランド服のコーナーが設置され、他のショップからも引き合いが来るようになり、中にはオーダー服を注文したいというお客さんも。
無職引きこもりニートが成功に至るステップを見るようだ!財政にも多少の潤いが出てきて、綾香と週一回居酒屋に行くくらいのお楽しみも味わえるようになります。
ところで、最近ではイヌネコにお洋服を着せる飼い主さんが多くいらっしゃいますが、犬も猫も飼ったことがない私としては『動物に洋服着せてどうするんだよ、毛皮着てるだろ全く』と以前には思っておりました。
ズッコケ新米巡査の高木聖大くんも同じ思いを抱いていたようで、短編「毛糸玉を買って」の中ではペット洋服を作る芭子ちゃんに『俺、芭子さんには、ガッカリですよ。まじ』と責めたてています。
そんな聖大くんと私に、芭子ちゃんがペット洋服のメリットを説明してくれました。
「最近の小型犬は、無理な交配で生まれている場合もあって、身体の弱い子が多いですし、家の中で飼われているようになっていますから、すごく寒がりなんです—(中略)—それに、ああして服を着せることで、身体が汚れることを防ぐという意味もありますし、お散歩の途中で他のイヌと喧嘩して、もし噛まれたりしても、身を守ることも出来ます。もちろん、デザイン的な面で飼い主が色々と楽しむことはありますが、少なくとも私は、イヌの負担にならないように、着やすい服を作っているつもりです」
芭子ちゃん!アナタまあ大人になって!
人目につかないように物影に隠れ、聖大くんが警察官であるというだけで避けがちだった芭子ちゃんが、自らの職についてこんなに立派に主張できるようになったというだけでオバチャン感涙。
仕事を持つということは、なにも金銭的なメリットだけじゃなくって、メンタル面でも多く得られるものがあるんだなあと、件の芭子ちゃんを見て思うところであります。
あ、イヌネコ服のメリットなるものも、私は実際この本で知りました。『雪やこんこ』とは時代が違うのね~。
「こんな私が、誰かを哀れだと思うなんてね」
つい、口に出して呟いていた。綾香が一瞬、驚いたように顔をあげて、それから「うん」と頷いた。
「すれ違う背中を」では前作に引き続き、特に大きな事件もなく芭子と綾香の日常生活を綴っていますが、前作に比べて芭子ちゃんはちょっと成長して、自分の居場所を見つけられるようになってきました。
(ちなみに『特に大きな事件もなく』と言いながらも、中では誘拐未遂とかストーカーとか美人局とかさりげなく発生しています。谷中の治安の悪さにびっくりぽん)
それでは、もう一人の主人公、綾香の方はどうでしょう?
いつも前向きで、いつかパン屋を開きたいという夢のために努力している綾香。元気一杯で明るく面倒見の良い彼女。
それでも彼女は“殺人”という、芭子よりもさらに重い過去を背負っています。
芭子が自分の居場所を見つけつつあるように、綾香もいつか、自分の居場所を見つける事ができるのか。
それはシリーズ三冊目の「いちばん長い夜に」でわかります。
ほんのむし 明日につづく!