SF作家ルークは、カリフォルニア州の砂漠の一軒家で、原稿が書けずに四苦八苦していた。そこに突然、奇妙な緑色の小人が出現してなれなれしく話しかけてきた。「やあ、ここは地球だろ?」地球に大挙してやってきた奇妙で、意地悪で、悪戯好きな小人は、どこにでも現われては、いらぬことをしゃべりまくって人類の邪魔をする……火星人の巻き起こすとんでもない大騒動を軽妙に描きだす、奇才ブラウンの傑作ユーモアSF
(巻末内容紹介より)
阿刀田高「食べられた男」の一編『笑顔でギャンブルを』では、火星に高等生物がいるかいないかのギャンブルが出てきました。
その中では、火星には高等生物は居なかった(元・高等生物はいたかもね)ホシ夫人は賭けに勝ったという結末でしたが。
ブラウンは、いや、SF作家ルークは知っている。
火星には、火星人が居ます。タコ型じゃないけど。
火星では緑色の小人が、発達した文明を築いています。
……こんな火星人、嫌だ~!!!
かれらは一人の例外もなく、口が悪く、挑戦的で、こうるさくて、胸糞がわるくなるようで、横暴で、喧嘩好きで、辛辣で、無作法で憎ったらしく、礼儀もしらず、呪わしく、悪魔的で、軽口ばかりたたき、おっちょこちょいで、うとましく、憎しみと敵意にみち、お天気屋で、傲慢で、分別にかけ、おしゃべりで、人を人ともおもわない、やくざな、実にもって興ざめな輩だった。彼らは目つきがいやらしく、人をむかむかさせ、つむじ曲がりで、金棒曳きで、品性下劣、吐き気がしそうで、あまのじゃくで、ことごとに拗ねてみせ、ひねくれ者で、争いを好み、乱暴で、皮肉屋で、気むずかしく、平気でひとを裏切り、残忍このうえなく、野蛮で、ゆかしさにとぼしく、癇癪もちで、他星人(よそもの)ぎらいで、ぺちゃくちゃと騒々しく—(後略)—
上記くだくだしい引用を一言でまとめれば、ぶっちゃけイヤな奴です。
いつも私が「火星人ゴーホーム」を読む度に連想するのは志村けんなんですけどね。志村けんのコントに出てくる傍若無人で気持ち悪いオッサンに通ずるイライラ感。ちょーイライラさせるよー。
一人でも充分イライラさせられるってのに、地球にやってきた火星人の数、総勢10億人!10億っすよ10億!10,000,000,000!ゼロ10個!
当時の地球人口およそ30億に対しての火星人10億。3人にひとりあたりの割り当てで、地球人にぴったり火星人が貼り付いている次第です。
しかも瞬間移動(クイム)でどこでも入り込んじゃうし、透視で何でも見えちゃうし、プライバシーもへったくれもありません。
その被害は人間だけに非ず。犬まで!犬まで発狂するイライラ感よ、すごくない?!
「火星人ゴーホーム」は、1964年のある日、10億人の火星人が襲来して、住み着いて、すがたを消すまでの、主人公のSF作家ルーク・デヴァルウを中心とした146日と50分間のお話。
私だったら146日と50分も耐えられない。いますぐ火星に、Go Home!
言わずもがなかもしれませんが、小説の題名「火星人ゴーホーム(原題:Martians, Go Home)は」「ヤンキー・ゴーホーム」が元ネタになってます。
ヤンキーゴーホームって戦時中&戦後の日本人が言っていたのかと思ったら、アメリカ南北戦争あたりで使われだした言葉のようです。(南部アメリカ人が北部アメリカ人をさした俗称)以上豆知識。
さて。この小説の主人公は、ひとりのSF作家ルーク・デヴァルウですが。
ルークが主人公となっているのは、何もブラウンのランダムな焦点当てのせいではありません。
地球から火星人が姿を消すために、ルークはとある重要な役割を果たします。
いや、重要な役割は「火星人が姿を消すため」ではない…かも?もっと根源的な役割を担っているとも言えます。ほんとに、マジで、根源的な役割を。
それは、作者フレドリック・ブラウンも「作者のあとがき」で明言しております。
作者のあとがき
出版社から私あてに、次のような手紙がとどきました。
『火星人ゴーホーム』の原稿を印刷所に入れる前に、作者としてのあなたから、この物語のための、あとがきを書いていただきたいと思います。そうすることによって、この火星人事件の真相を、出版社ならびに読者のみなさんに教えてほしいのです。
この本を書かれたのは、ほかでもない—(中略しつつ秘す)—
私は初めここで断案をくだすことを避けたいと思いました。なぜなら、真相は往々にして驚倒すべきものであり、それにこの場合、みなさんが私の申しあげることを信じられれば、それは実にもって恐るべき真相となるからです。が、しかたがありません、お教えしましょう。
ルークが正しいのです。この宇宙と、そこにある森羅万象のことごとくは—(後略しつつ秘す)—
入力を避けた作者のあとがき部分だけは、どうしても、どうしても明かせないなあ。
特に、あとがきのラスト3行だけは、どうしてもどうしてもどうしても明かせない。
果たしてブラウンの署名入り「作者のあとがき」までが「火星人ゴーホーム」の一部なのか?それとも、あとがきは小説と分断された、本当の“恐るべき真相”を語っているのか?
どちらを取るかは、あなた次第。
10億人の火星人来襲ドタバタ騒ぎを楽しんでいたら、最後の最後でひっくり返されるブラウン恐るべし。どうよ、どうよ、どうなのよ。
この宇宙と森羅万象の恐るべき真相は、ホントはいったいどうなのよ。