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スティーヴン・キング「ミルクマン」

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近道探し、抜け道探にし熱中するトッド夫人はついに地図上の直線距離より短い道を発見した!―しかしそれは木々が怪しくざわめき見たこともない動物がひそむ異世界だった。―「トッド夫人の近道」。秋のだれもいない保養地の湖で大学生たちをひとり、またひとりと襲う怪物の静かな恐怖「浮き台」。ヒッチハイク中の青年の目の前にあらわれ、彼を殺人へと駆り立てる謎の女「ノーナ」など、モダン・ホラーの王者キングが独自の幻想世界を妖しく描いた傑作短編集『スケルトン・クルー』完結編。
(「BOOK」データベースより)

スティーヴン・キングがアメリカで出版した短編集「スケルトン・クルー」を、日本で3つに分割して出版したのが「骸骨乗組員(スケルトンクルー)シリーズ」
その内の1冊が、この「ミルクマン」です。
 

いまGoogleで『ミルクマン』と検索すると、明治牛乳宅配サービス『株式会社ミルクマン』が出てくるのですが、こちらは普通の宅配ミルク。
キングが生み出すミルクマンの方は、同じ宅配ではあっても、余分なモノまで一緒に配達されちゃいます。タランチュラと?かね。シアン化ガスとかね。
蜘蛛が嫌いだからって『予約取り消し』にしてしまうと、宅配ミルクマンに毛髪と頭皮を剥ぎ取られちゃうかもしれないから、契約解除には要注意?
 

とはいえ、「ミルクマン」の中で、表題作『ミルクマン』は、実はあんまり面白くない短編ではあります。
「ミルクマン」を手に取った方は、巻頭の2つ『ミルクマン(早朝宅配』『ミルクマン(ランドリーゲーム』はサクっと読み飛ばしちゃってー。時間がもったいないわー。
 

洞窟の奥には、さらに素敵なお宝があるのですよ。進めや進め、いざ進軍。

「ミルクマン」のおすすめ短編に何を選ぶか?というと、極私的には『浮き台』と『生きのびるやつ』どちらかという気がしますが、ここはひとつウッキウキのカニバリズム作品『生きのびるやつ』をご紹介しましょう。

《医学生なら誰しも遅かれ早かれ直面する疑問が一つある。それは、患者というものはどのていどの外傷性ショックまで耐えうるのか、という疑問である。答え方は人によってまちまちで、教授や講師の数ほどあるが、肝心の答えのほうは煎じ詰めると、結局のところ次のような問いになる。すなわち、当の患者がどれほど切実に生き延びたいと思っているか?》

外科医リチャード・パインは、病院勤務の利点を活かしてヘロインの密輸を企てるためにベトナムからサンフランシスコ行きの客船に乗り込みました。
しかし、不幸な事故により客船は沈没。
救命ボートで辛くも脱出したパイン先生でしたが、ボートが流れ着いたのは岩山だらけの無人島。ボートからピックアップできたのは、4ガロンの水、裁縫セット、救急セット、2本のナイフ、ボートの点検日誌とペン。
それに彼が密輸しようとしていた、純正ヘロイン2キログラム。
 

岩山にいたカモメを捕まえて食料にしようとしたところ、パイン先生ったらうっかりやさん。転んで踝の骨を骨折してしまいました。
いくら外科医でも、救急セットじゃ骨折は治せない。身動きもとれず、食料もない。
パイン先生、さあ、どうする?
 

骨折した足が壊死しかけ、ナイフと、麻酔代わりのヘロインを使って右足を切断手術。
ちなみに『足』とは踝から下の部分なので、切断箇所は言うなればショートブーツくらいでしょうか。
腕っこきの外科医なんで、手術はお手の物です。プロフェッショナル仕事の流儀です。

ぼくは用心に用心を重ねた。
徹底的に洗ってから食べた。

切断された右足をどう処分するか…と考えたら、そりゃ答えは決まってますよねえ?だって、他に食べるもの無いんですもの。
大丈夫。火は起こせないから生食だけど、よく洗ってあるよ☀
 

『生きのびるやつ』のパイン先生が召し上がっているのは人肉ですが、この話はカニバリズムが主題というよりも、痛みへの耐性とか“人間はどこまで外傷性ショックに耐え得るのか”が主題になっています。
同じ動物性タンパク質だったら、他人の足よりは、自分の足の方がまだ抵抗感が少ないような気がしますよね。鼻クソ食べるようなもんで。ちょっと違う?
 

“不要品”の右足を食料として有効活用したパイン先生でしたが、救助が来ぬままに日は過ぎ、腹は減る。
手術の後の痛みと痒みをまぎらわせるために、日がな一日ヘロインで陶酔し、ゆらりゆらりと理性と常識が混濁して行く。
 

自分は自己手術の外傷性ショックにも耐えた。そしてその結果、食料を得た。
もう一度食料を得るには、どうしたら良い?
 

右足の反対側にあるのは何?そう、左足。
足首の上にあるのは何?そう、膝下までの脚。
膝から上にあるのは何?そう、太腿。

ハハハハ
“人は食によってつくられる”というが、これがほんとうなら、ぼくはまったく変わっていないことになる!くそっ、外傷性ショック、外傷性ショック、外傷性ショックなんてありやしないのだ!
 ハッ!

自分の足を食べるタコが、全部の足を食べちゃったら。
胃袋裏返しになって、まあるい玉になるのかな?

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