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奥田英朗「イン・ザ・プール」

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「いらっしゃーい」。伊良部総合病院地下にある神経科を訪ねた患者たちは、甲高い声に迎えられる。色白で太ったその精神科医の名は伊良部一郎。そしてそこで待ち受ける前代未聞の体験。プール依存症、陰茎強直症、妄想癖…訪れる人々も変だが、治療する医者のほうがもっと変。こいつは利口か、馬鹿か?名医か、ヤブ医者か。
(「BOOK」データベースより)

もし貴方が心の病にかかったら、伊良部総合病院地下にある神経科に行くことをおすすめします。
もしかすると『トンデモ医者を紹介しやがって!』って怒られちゃうかもしれないけど。
でも、何故か治るよ。どうして治るのかわからないけど、何故か治る。治れば結果オーライでしょ?

ドアをノックする。中から「いらっしゃーい」という甲高い声が聞こえた。
《「いらっしゃーい」だって。再びチョー不安》

ケータイ依存症の雄太の不安は、残念ながら、よく当たる。
 

トンデモ医師の伊良部センセイは、色白でデブで不潔で注射フェチのマザコン。
幼稚な発言と奇行で、患者よりもある意味患者らしい。
でも、病院名を見ておわかりの通り、総合病院の可愛い一人息子なんで、クビになる心配はありません。
しかもお父様ったら医師会の理事。ボンボンでんな!ボンでんな!
 

通常であれば大病院の跡継ぎ候補の医師なんていったら、世の女性が蝿のように群がってしょうがない状況になりそうなんですけどね。
来院したコンパニオン女性が「うええ」ドン引きするくらいなので、彼のモテ度合いが如何に低いかは推して知るべしでしょう。
愛車はポルシェなのに。ポルシェでも相殺されない、彼のマイナスポイント。
 

そんなトンデモ医師のいる伊良部総合病院神経科に来院した患者さんたちの運命やいかに。

『運命やいかに』なんて言っておきながら、いや結局治るんですよ。最初に言ったでしょ。
で、その治る過程というのが、面白い。

伊良部がまた石を投げた。今度は建物の壁に当たった。
義雄は咄嗟に周囲を見た。目撃者がいるのではないか。心臓が波打っている。
なのに伊良部は一向に周りを気にする様子もなく、石を物色している。
自分も変だが、こいつはもっと変だ。
義雄は思った。世の中には、心配をかける人間と心配をする人間とがいる。伊良部は前者で自分は後者だ。後者が前者の分まで心配することにより、世の中は平和裏に運んでいるのだ。
なんて不公平なのか。

「イン・ザ・プール」でやってくる患者さん、おおむね『自分も変だが、こいつはもっと変だ』が治癒の転換点となります。
つまり、人の振り見て我が振り直せ?というか、誰かが興奮すると、周囲はかえって冷静になる状態というか。
 

オカシな状態に陥っていたそれぞれの人達も、伊良部センセイのチャイルディッシュな言動に『いや、なにもそこまで』と、押さえる側に回ってしまう訳です。
だって、いくらプールで泳ぎたくてたまらない人でも、夜中の市民プールのガラス窓ブチ破って侵入しようとするセンセイは、さすがに止めちゃうでしょ?
 

『治療だから』の名のもとに、傍若無人なふるまいをしたりミイラ取りがミイラになるような所業をしたりする伊良部センセイですが、これは素でトンデモ医師なのか、実は計算ずくの名診断なのか全くわからないのが楽しいところ。
いや多分、素でトンデモ医師なんでしょうけどねw
でも、もしかしてもしかすると…。
 

とりあえず、もし貴方が心の病にかかったら、レッツゴー伊良部総合病院地下の神経科。
何が起こるかはわからないけれど。
でも、何故か治るよ。どうして治るのかわからないけど、何故か治る。
治れば結果オーライでしょ?

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