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堂場瞬一「大延長」

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公立の進学校・新潟海浜と、私立の強豪・恒正学園との夏の甲子園決勝戦は延長15回でも決着がつかず、再試合にもつれこんだ。両チームの監督は大学時代のバッテリー。中心選手はリトルリーグのチームメイト。互いの過去と戦術を知り尽くした者同士の壮絶な闘いのなかで、男たちの心は大きな変化を遂げていく―野球を愛するすべての人に贈る、感動の傑作長編。
(「BOOK」データベースより)

夏の高校野球、神奈川県大会の決勝戦。

さーて、甲子園に行けるのは、どっちだ。

…地味?

一冊の本にするには、県大会じゃ地味すぎないかって?

確かにその通り。「大延長」は、神奈川県大会の決勝に勝ち進んだ2校の野球部監督2名が、高校生時代の甲子園出場経験を振り返る枠構造になっています。

15年前の甲子園決勝戦で、延長15回の果ての再試合に臨んだ元・高校球児たち。当時も敵チーム、現在も敵チーム。

つまり、この小説では、主題となる夏の甲子園決勝戦の結果が、既に明かされているということです。

結果が分かってちゃ楽しくないな、なーんて思ったそこの貴方。

一足飛びに結論を出したら、後悔しまっせ。

今、マウンドに立っているのは俺じゃない。これから打席に向かうのはお前じゃない。だがあいつが、若い選手たちにかつての自分の姿を投影しているのは間違いない。
お前は、あの戦いを再現しようとしているのか。握り締めた拳の中に、あの日の暑さが蘇る。

新潟海浜高校野球部。

文武両道とはいえ県立校が甲子園決勝まで勝ち進むのは稀なこと。初めての甲子園出場に沸き返って、あれやこれや口出しをするOB連中もいます。

OBの口出しに悩める羽場監督。何が悩ましいかって、エースピッチャーの牛木くんが膝を痛めてしまったこと。

羽場さん自身も甲子園の無理な連投で故障し、プロに行けなかった経験を持つだけに、牛木くんへのこれ以上負担は彼の将来に影響する。

なおかつ、キャプテンの春名くんも甲子園直前に自動車事故にあい手首を骨折。あーまったくもうどいつもこいつも。

恒正学園高校野球部。

スポーツ特待生なども積極的に活用する、私立の甲子園常連校です。

監督の臼井さんは他校からヘッドハンティングされたやり手で、新潟海浜の羽場さんとは対照的な『選手は俺の手駒だ』のワンマン監督です。

そのワンマン監督に頭を抱えさせたのが、選手の喫煙発覚。週刊誌に隠し撮りされて、翌週発売のトップ記事にされることは避けられません。

明日の試合でめでたく優勝しても、喫煙騒動で評判はガタ落ち。かといって優勝を逃せば、さらにヘッドハンティングされていた横浜の私立学校への転職に影響を与えることは必至。

エースの久保くんもメンバーとの軋轢が大きくなってきて、チーム全体に流れる不協和音。あーまったくもうどいつもこいつも。

対照的な2校がそれぞれの思惑を胸に挑む、延長戦後の再試合。

最初から結末がわかっている筈なのに、ハラハラドキドキ。ああ、この先いったいどうなるの?!

「大延長」には魅力的なキャラクターが多数登場します。

堂場スポーツではおなじみの、能力&プライドがバベルの塔より高いビッグマウス牛木くんや、委員長タイプの春名くん。

ヒール的な役割の臼井監督だって、噛み締めるとじっくり味の出るスルメのような奴です。

しかーし!私は「大延長」にて、滝本おじさんを皆様におすすめしたいっ!(バンバンバン)

両校の監督がバッテリーを組んでいた大学時代の、野球部の監督。つまりは、この監督さん達はいずれも滝本さんの教え子なんですね。

滝本さんは既に監督業からは引退して、現在は野球解説者として甲子園の野球解説をしております。

教え子ふたりが率いる野球部の甲子園決勝戦。

滝本さんとしては、この試合の解説を自分ができることが、本当に幸せでたまらない。

だけど滝本おじさん。彼は3ヶ月前に癌の告知を受けて、甲子園のすぐ後に手術を行う予定です。

もしかしたら、自分が解説する最後の試合になるかもしれない再試合、の、朝。
ホテルの部屋で倒れた滝本さん。

救急車で運ばれた病院で、休息を勧める医師に返すひとことが、良い。

「先生ねえ」ワイシャツの袖をまくる。ネクタイはしても、袖を伸ばしたままでは暑さに耐えられないだろう。「先生はまだ若いから分からないかもしれないけど、人間は一生に一度か二度、魂が涸れちまうまで張り切らなきゃいかん時がくるんですよ。私にとっては今日がまさにそうでね」

おっさん萌えの女子、ちゅーもーく!ここで滝本さん、世のおっさん好きのハートをゲッチューよー!

とはいえ、ワガママばかりの親父じゃないのよ滝本さん。何としてでも解説者席に座りたい、甲子園で死ぬなら本望だとゴリ押ししながらも、可愛いところもありますですよ。

二人のやり取りを黙って聞きながら、これじゃまるで子どもだな、と苦笑した。俺も、人に世話してもらうような年になったのか。情けないが、こういう現実も受け入れていかないと。手術、入院となれば、娘の美和子にも何かと面倒をかけるだろう。意地を張らず、人の好意は素直に受けるようにしないと。どうせなら可愛いジイさん、理想の患者になってやろう。
長生きすれば、また甲子園で解説をするチャンスがくるかもしれない。そうだ、それを目標に頑張ればいいじゃないか。何歳になっても目標はあった方がいい。

た、滝本さん、可愛いよキミ可愛いよハアハア。

新潟と東京のふたつの学校、それぞれの監督と選手が魂をかけて試合に臨むように、解説者も魂をかけて試合に臨む。

そして、そしてそしてそして、再試合の最中に滝本おじさんに起こった出来事は…
滝本さーん!たったっ、滝本さーん!(絶叫)

いやほんとに「大延長」は、あっちもこっちも気になってしまってハラハラドキドキ。普段野球にはまったく興味がない私ですらこうなんだから、高校野球好きの方々にはどれだけ心そそるものがあるんでしょう。

甲子園の季節になったら、是非「大延長」を。

ついついTVのチャンネルを、NHKにまわしたくなりますよ。

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