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北村薫「鷺と雪」

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昭和十一年二月、運命の偶然が導く切なくて劇的な物語の幕切れ「鷺と雪」ほか、華族主人の失踪の謎を解く「不在の父」、補導され口をつぐむ良家の少年は夜中の上野で何をしたのかを探る「獅子と地下鉄」の三篇を収録した、昭和初期の上流階級を描くミステリ“ベッキーさん”シリーズ最終巻。第141回直木賞受賞作。
(「BOOK」データベースより)

「街の灯」からはじまる、ベッキーさんシリーズ最終巻「鷺と雪」です。
シリーズ第二作目の「玻璃の天」が抜けてるじゃないか、と言われそうですが、だって今日は2月26日なんですもの。
 

「鷺と雪」では、今日2/26に起こった「二・二六事件」の日、青年将校たちが決起して各所を襲撃した、まさにその時の出来事がシリーズのラストを飾ります。

その年、昭和十一年。二月二十六日のことだった。

ここでひとつお詫びをば。
 

過日シリーズ一作目の「街の灯」をご紹介した際、さくらは以下のように書きました。
 

ベッキーさんシリーズを3冊通して言えば、描かれている時代はちょうど「五・一五事件」から「二・二六事件」までとなります。
正確に言えば、シリーズ最終巻の「鷺と雪」のラストが、二・二六事件の前夜まで。

 

ちげーよ。文中に書いてあるじゃんか『二月二十六日のことだった。』って。
前夜だったら2/25になっちゃうじゃないか(過去記事は修正しました)
 

さて。
先にお聞きしておきますが、皆さん「玻璃の天」は読みましたね?
ベッキーさんシリーズの短編集は、それぞれ独立した話にはなってはいるもののの「玻璃の天」の前に「鷺と雪」を呼んだら興ざめです。
「街の灯」→「玻璃の天」→「鷺と雪」の順番で是非。
ちなみにの「玻璃の天」の中ではスーパーウーマン・ベッキーさんの正体というか来し方が明かされていますので、要チェックよー。

しばらくして、ベッキーさんがいった。
「お嬢さま。——別宮が、何でも出来るように見えたとしたら、それは、こういうためかも知りません」
「はい?」
ベッキーさんは、低い声でしっかりと続けた。
「いえ、別宮には何も出来ないのです——と」

基本的には「鷺と雪」も、主人公 英子さんの“日常の謎”を取り扱ったミステリですので、各短編とも日常生活の延長上で話は語られていきます。
日本橋三越で正面玄関のライオンにまたがると受験に合格する、とかね。今でも言われる受験生のジンクスが登場するのも面白いもんです。
ああ、それを知ってライオンにまたがってみようと藁をもすがる受験生の皆々様よ、これ結構難儀だから、やめとき。
 

さてさて。
前述の通りベッキーさんシリーズは、この「鷺と雪」をもって完結されます。
昭和11年2月26日以降、日本がどうなっていったのかは、皆さんご承知の通り。
そしたら、ベッキーさんシリーズの登場人物たちが、どうなって行くのかも、想像の翼がはためくものですね。
 

主人公の英子ちゃんは、実在の人物の中でもある程度の絞り込みが可能です。
なんたって“日本で五本の指に入る財閥のお嬢様”ですから。いわゆる日本の四大財閥“三井・三菱・住友・安田”の中のいずれかであろうことは推察されます。
それぞれの旧財閥一族の系譜をたどって、あっちかな?こっちかな?と想像。ま、そもそも架空の小説ですのでね。あくまでも想像ってことで。
想像の翼を最大限にまで広げていくならば、オノ・ヨーコって確か安田財閥一族の人なんですよね。
もしかしたら英子ちゃんが将来、ジョン・レノンと結婚するのかもしれない?!なんて、想像の翼をバッサバッサ。
 

英子と淡い関わり、初恋とも呼べないほどの淡い交流を持った陸軍青年将校の若月さん。
彼は二・二十六事件に関わっていますので、例えばウィキペディアに載っている首謀者と参加者一覧の誰かと推察されます。
若月さんの階級と、襲撃した場所に合致する人と言えば……あっちかな?こっちかな?と想像。ま、そもそも架空の小説ですのでね。あくまでも想像ってことで。
 

しかし、かのベッキーさんにおいては。
全く、彼女の未来が想像つきません。
 

私の勝手な想像では、第二次世界大戦が始まって、英子が信州かどっかへ疎開する際に、英子の運転手の職を辞するような気がしてなりません。
運転手の職が要不要という問題ではなく、彼女自身の意向によってお暇頂くかと。元々運転手の職自体が、給与目的よりも違う目的があったものですし。
 

日本全体が大きなうねりを見せる中で、ベッキーさんは、田舎で小さく身を守るよりも、何かもっと違う選択を選ぶような気がしてなりません。
違う選択が何かって、いうのは、何だとは言えないのですが。

「かつてあなたのいった一句を思います。あれを、あなたはお信じになれるのか——と」
「何のことでしょう?」
「——善く敗るる者は亡びず」
ベッキーさんの引いた『漢書』の一節だ。帝都のうちとは、そしてまた新年の宴の喧騒が間近にあるとは思えぬ静けさが、部屋に降りた。
ベッキーさんはいった。
「はい、わたくしは、人間の善き知恵を信じます」
勝久様は、まるで護符をいただいたかのような表情で、そっと頷いた。

孤高のベッキーさんが、信じるものに対してどう対していくのか。
“何も出来ない”ベッキーさんが、時代の竜巻にどう棹差していくのか。
想像の翼を広げて、答えのない疑問を楽しむ、そんな余韻のある“ベッキーさんシリーズ”の完結です。

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