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中山七里「おやすみラフマニノフ」

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第一ヴァイオリンの主席奏者である音大生の晶は初音とともに秋の演奏会を控え、プロへの切符をつかむために練習に励んでいた。しかし完全密室で保管される、時価2億円のチェロ、ストラディバリウスが盗まれた。彼らの身にも不可解な事件が次々と起こり…。ラフマニノフの名曲とともに明かされる驚愕の真実!美しい音楽描写と緻密なトリックが奇跡的に融合した人気の音楽ミステリー。
(「BOOK」データベースより)

恩田陸の「蜜蜂と遠雷」が、直木賞と本屋大賞のダブル受賞で最近話題になっております。
個人的には恩田陸の小説はちょいと肌身に合わない(すいません)ので未読ですが、楽曲の音楽性を文字で表現するに素晴しいとの評判だとかなんだとか。
 

とはいえ、「さよならドビュッシー」から続くこちらのシリーズも、その伝で言ったら負けていないような気が致しますのよ。
子供の時分にはピアノの家庭教師(!)がついていたのに、数年かけてバイエルが終らなかった私でさえも、「おやすみラフマニノフ」の読中には、多大な熱量をもった音楽の旋律が聴こえていたように感じられます。
まあ、とは言っても、ラフマニノフがどんな曲なのかもわかっていない私ですけどね。
私の耳に流れていた架空の旋律は、もしかしたら猫ふんじゃったなのかもしれない。

密室——そう。誰も侵入できず、そして脱出もできない部屋から子供一人分ほどの大きさの楽器が消失したのだ。
誰が?
そして一体どうやって?
数々の疑問が渦巻く中、ボクは事件の発端となったあの日のことを思い出していた。

音楽の素養が全くない私とて、さすがにストラディバリウスの名称は知ってます。
伝説の名工アントニオ・ストラディバリの製作したバイオリン。サザビーズのオークションで○○億円で落札!とか、認知はおおむね卑近な方角からですけどね。
 

「おやすみラフマニノフ」は、そのストラディバリウスのチェロが忽然と姿を消したところから話がはじまります。
ストラディバリウスってバイオリンだけじゃないの?と驚いたそこの貴方は、音楽の知識レベルが私とどっこいどっこいですね、残念ながら。
 

チェロといえば全長1メートルほどもありそうな、大人が担ぎ上げるのも大変な大きさ。
そんな大きな物体を、銀行の金庫室もかくやの警備体制を敷いた、愛知音楽大学の楽器保管室から、一体どのようにして盗み出したのか。
チェロの盗難騒ぎだけでなく、次には学長所有のグランドピアノが破壊され、さらには学長本人に対する脅迫状が到着。
 

いやはや、音大の演奏会ってのも、結構デンジャラスですねえ。

毎度毎度、ラストにどんでん返しを持ってくるのがドンデン中山のお約束。
中山七里のミステリではストレートな結末の方が“驚愕のラスト!”ですから、この小説でも2、3回のスパイラルどんでんがあることは予想しておきましょう。
ただですね、今回のスパイラルどんでんは、さほど大きなトルネードどんでんではありません。トリックや動機に「うーむ」と首をひねる箇所があったとしても、そこは軽く流しておいて頂けるとありがたい。
 

それよりも!「おやすみラフマニノフ」で特筆すべきは、シリーズ探偵役の岬洋介先生!
前作「さよならドビュッシー」よりもさらにパワーアップした岬先生の超人ぶりこそが、本シリーズ最大のミステリかもしれません。

岬先生は腰を落とし、リノリウムの床に視線を走らせる。
ボクははっとした。その目はまるで冷徹な化学者の目に一変している。普段の穏やかさなど毛の先ほどもない。
この人は一体、何者なのだろう——。

主人公の“ボク”城戸晶くんと同様、私も知りたい。この人は一体、何者なのだろう。
 

「さよならドビュッシー」では確か、元は新進気鋭のピアニストながらも病気で半ば引退、暇にあかせてピアノの家庭教師を請け負う位のご隠居さんだった筈。
それが「おやすみラフマニノフ」においては、単独ピアノリサイタルを開催すればそこそこのホールを超満員にするほどの人気、臨時とはいえ音大の講師を勤め、生徒への指導は的確かつ明快で具体的なカリスマ講師。
人当たりも良く温和な性格、でも非常時には冷静沈着に人心を鎮める力も持っている。
警察には密かに事件の真相を探るご指名を受け、やすやすと謎解きしちゃう冴えっぷりも言わずもがな。で、読者の想像を裏切らないよう、当然のことながらイケメンです。
 

さらにさらに、小説のクライマックスである愛知音楽大学の定期演奏会では、急遽辞退した指揮者に代わってオーケストラの指揮までこなす!しかも本業の指揮者よりも優れたコンダクターぶりで!
何だこやつは。音楽界の至宝か。
 

「おやすみラフマニノフ」は、正直いってミステリとしてはさほどのインパクトはありませんが、音楽を愛する若人達の青春小説として楽しむには宜しい本です。
そして、超人・岬洋介の活躍を楽しむヒーロー小説としても、また良し。
 

後者に重きを置く私としては、早くシリーズ3作目の「いつまでもショパン」を読まなくちゃ、と、本屋に足を急ぐ気持ちでございます。
3作目の岬先生は、どこまでパワーアップしていることだろう。
次には空でも飛ぶんじゃなかろうか。

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