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高田郁「想い雲―みをつくし料理帖」

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土用の入りが近づき、澪は暑気払いに出す料理の献立に頭を悩ませていた。そんなある日、戯作者・清右衛門が版元の坂村堂を連れ立って「つる家」を訪れる。澪の料理に感心した食道楽の坂村堂は、自らが雇い入れている上方料理人に是非この味を覚えさせたいと請う。翌日、さっそく現れた坂村堂の料理人はなんと、行方知れずとなっている、天満一兆庵の若旦那・佐兵衛と共に働いていた富三だったのだ。澪と芳は佐兵衛の行方を富三に聞くが、彼の口から語られたのは耳を疑うような話だった―。書き下ろしで贈る、大好評「みをつくし料理帖」シリーズ、待望の第三弾。
(「BOOK」データベースより)

吉原遊郭では、お客さんは目当ての花魁とはそうそう首尾を果たせないようなシステムになっていたそうでして。
そのシステムは、高田郁の「みをつくしシリーズ」にも受け継がれているようでございます。
 

澪ちゃんのお料理スポ根ドラマも、早3冊目。
あいかわらず澪ちゃんはお料理に励み、勤務先のつる家も繁盛しております。
 

そして、災難続きなのもあいかわらず。
ライバル店の登龍楼関係からの嫌がらせだけでなく、女料理人の評判に乗っかろうとした無関係の小料理屋が出てきたり、行方知れずの芳さんの息子が女郎を殺して逃げていたり、奉公に出ている健坊が家出をしたりと、3冊目になっても“雲外蒼天(うんがいそうてん)”のトラブルは絶えることがありません。
易者の水原東西さん、彼女の運勢をよく当てること、当てること。
 

しかしながら、ですよ。
今回の「想い雲」のメインイベントは、何と言っても野江ちゃん登場!でございましょう。

野江ちゃん、またの名を、伝説の花魁・あさひ太夫。
かつての澪ちゃんのおさななじみあります。

あさひ太夫に逢わせてほしい。
しかし、そのひと言を澪は口にすることが出来なかった。
——里の中であんたに逢いたいと……遊女でいる姿をあんたに見られたいと……太夫がそれを願うと思ってるのか?
以前、又次から投げつけられた台詞が、胸に残っていた。

大阪の嬢(いと)さんが、何がどうしてお江戸は吉原の遊女にまで堕ちてしまったのかについては、まだ謎が多いところです。
“旭日昇天(きょくじつしょうてん)”の大強運の持ち主であった筈の野江ちゃんが、ねえ。
易者の水原東西さん、こっちの占いは外したか?
 

1冊目「八朔の雪」ではウワサだけ、2冊目「花散らしの雨」では、障子のすき間からハラリと振られた白い手だけ。
3冊目「想い雲」にして、はじめて澪と野江が再び邂逅いたします。
 

吉原のお客さんは、いくらお金持ちでもトップスターの花魁とはすぐに目的を果たせないしきたりだったそうです。
普通の遊女とはすぐに同衾できるけど、そこが遊女と花魁の違い。
 

「初回」「裏」「馴染み」と3回通って、3回目にしてようやっと目当ての花魁と遊ぶことができたそうでございますよ。
 

そう考えると、3冊目にしてやっと二人が再会できたというのも、澪ちゃんが「初回」「裏」「馴染み」の3冊分吉原に通ったから?
さすが伝説の花魁・あさひ太夫、セオリー通り…!

いやでもね、二人が再会するシーンはとてもファンタジックで美しいです。
白狐の群れの中で『玉響(たまゆら)と呼ぶのが相応しい、短く淡い再会』ほんの一瞬だけ、ほんの2ページだけ。

野江との再会も、もしや夢ではなかったのか。怯えながら、そっと左の掌を開く。
美しい縞目の片貝がちゃんとそこにあった。

シリーズを経る毎に、だんだんと存在感を増してくる野江=あさひ太夫。
「初回」「裏」「馴染み」の3回は通いましたから、この先はグッと太夫にも近付けるんじゃないかと期待しております。あー楽しみだ。
 

果たして水原東西さんの占いは、当たっているのかいないのか。
“雲外蒼天”“旭日昇天”二人のサイコロは、どっちに転がるんでしょうねえ?

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