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浅田次郎「鉄道員(ぽっぽや)」

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娘を亡くした日も、妻を亡くした日も、男は駅に立ち続けた…。映画化され大ヒットした表題作「鉄道員」はじめ「ラブ・レター」「角筈にて」「うらぼんえ」「オリヲン座からの招待状」など、珠玉の短篇8作品を収録。第117回直木賞を受賞。
(「BOOK」データベースより)

浅田次郎「見知らぬ妻へ」の記事の中で、私 さくらはこう書きました。

ダークな気持ちになりたくなったら『見知らぬ妻へ』の後で、『ラブ・レター』へ。

はい、今日の私はとってもダークなのな気分の皆さん、お待たせ致しました!
『ラブ・レター』が収録されている、「鉄道員(ぽっぽや)」でございます。
 

でも「鉄道員(ぽっぽや)」の中で一番有名な小説といえば、そりゃあもう表題作の『鉄道員(ぽっぽや)』に他ならないですよね~?高倉健だしね。ヒロスエだしね。
映画を鑑賞した人は既にしてもう、主人公の乙松は高倉健以外にはイメージを持てないはず。もし万が一未見の方がいらっしゃったら、すぐに観て。今すぐに観て。涙と鼻血で顔面ぐっしょぐしょになるから。

映画のイメージを除外して考えても、もちろん原作も宜しゅうございますことよ。泣かせの浅田が放つ剛速球、ドカーン!とドストレートで真正面へ飛んできます。
ひねり技とかそういうの、無し。ド速球。ドストレート。
但し、昨今のご時勢からすれば、ちょっと“家庭を顧みない男”の描写に昭和的な男の願望充足を感じますが。まあ、それも含めて、ド直球のドストレートだ。
 

『鉄道員(ぽっぽや)』に関して熱く語りたい気持ちはありながらも、今回はグッと我慢して本題へ。もうひとつの映画化作品『ラブ・レター』についてお話しましょう。

ラブレターの書き手は、妻。送り先は、夫。
でもこの場合の夫婦関係は、顔も知らない偽装結婚の関係です。
 

ヤクザが出稼ぎ外国人娼婦を祖国に帰さないために、日本人と偽装結婚して強制送還を防ぐ。だから夫婦とは名ばかりで、相手との愛情も交流もありません。
 

そういえば昔、私が高校生時分にバイトした喫茶店(夜は外国人パブに早変わり)が実はヤクザ経営で(ビル3階が組事務所だった!!!)東南アジア系の女性を引き連れた“その筋の人”が、女性たちの何冊ものパスポートを無造作に輪ゴムで留めて、喫茶店内で取引先?に受け渡しているシーンも見たことがあります。
その外国人女性が娼婦だったということではないのですけどね。女性を商品として取り扱わっている感のあるやり取りが怖かった。
「こいつぁーヤベーぜ!」と思い一週間でバイト辞めましたが、そもそもどうしてそんな喫茶店でアルバイトしようなんて思ったんだ私。内装外装も店員も顧客層も、今にして思えば怪しいニオイがプンプンしてたのに。
若くて無知で無鉄砲って、怖いですね~。
 

閑話休題。
歌舞伎町で長年フラフラしていた吾郎の元に入った一本の連絡。
過去に名義貸しした、偽装結婚の相手の女が病気で死亡したから、遺体を引き取りに来いと。
 

「何で俺が~?!」とブータレていた吾郎ちゃんですが、妻の写真を見せられた瞬間に一変。彼女、えれー美人だったんですよ。
 

結局、顔か?!人間、顔なのか?!
 

奥様の眠る千葉県まで電車で向かいながら、何故に何故だか吾郎の気持ちは“見知らぬ妻へ”傾斜して行く。
この気持ちの流れが、どうにも分からない私はまだ未熟なんでしょうか。

——手紙の途中から、吾郎は声を上げて泣いた。
「……どうしちゃったんだよお、吾郎さん」
不安げに覗きこもうとするサトシに向かって、吾郎は空缶を投げつけた。
「うるせえ、あっち行ってろ」
「だってよ……ふつうじゃねえもの……」
「ふつうだよ。どうもしちゃいねえよ。おまえらがみんなふつうじゃねえんだ。どいつもこいつも、みんなふつうじゃねえんだ」
暗い夜の窓に、コンビナートの灯が近付いてきた。

結局、顔か?!人間、顔なのか?!
 

ダークな気持ちになりたくなったら『見知らぬ妻へ』の後で、『ラブ・レター』へ。
そう書きたい気持ち、2冊続けて読んだ人なら分かって頂けるでしょう。
だってなんだか妙に気持ちよさげに吾郎ちゃん情動失禁してるけど、相手の奥さん、もう死んじゃってるしねえ。
死に至るまでの道程を考えると、吾郎の涙が、なんだか薄ら寒く思えるなあ。
 

私がバイトしていた喫茶店兼フィリピンパブは、もうとうの昔に閉店しましたが。
あの時に見た、あの女性たちは、今頃なにやってるのかなあ。
商品扱いされていた彼女たちが、ちゃんと人間に戻っているといいなあ。

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