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浅田次郎「天切り松闇がたり〈第5巻〉ライムライト」

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五・一五事件の前日に来日した大スター、チャップリンの知られざる暗殺計画とは―粋と仁義を体現する伝説の夜盗たちが、昭和の帝都を駆け抜ける。人気シリーズ、9年ぶりの最新刊。表題作「ライムライト」ほか5編を収録。
(「BOOK」データベースより)

天切り松シリーズ、ついに最終巻。多分。

ホントはね、前回の「天切り松闇がたり〈第4巻〉昭和侠盗伝」で完結という噂もあったんですけどね。〈4〉より9年後、オマケで5冊目が登場しちゃった訳ですよ。

いや嬉しいよ?!すっごく嬉しいよ?!でもね、明治41年生まれの松蔵改め天切り松が、平成の今の世に生きていたら109歳!聖路加の日野原先生よりも年上ってことさ。

100歳過ぎても素肌に作務衣一枚で留置場のコンクリに胡坐をかける、天切り松じーちゃん、既にファンタジイ…。

さて、5冊目「<5>ライムライト」の舞台は、どの短編も前作「<4>昭和侠盗伝」とほぼ同時期の昭和はじめ頃。

全体的に手仕舞いにかかってきている感があり、死ぬのよーバンバン死ぬのよー。

仕立屋銀次親分も網走監獄で死んじゃうしー。

脇役なれどコアな存在だった黄不動のお父さんも死んじゃうしー。

その度に浅田!浅田!浅田が泣かせやがるぜ!泣かせの浅田、ド直球ストレートで人の涙腺に大玉ブン投げてきます。

なんだよコンチキしょーめ。バスの中で読んでたから困っちゃったじゃないか。

「のう、おとっつぁん。倅を百ぺんも勘当しやがったあげくに、しめえはこのザマかよ」
栄治は死顔を見おろして悪態をついた。たしかに酒を飲んでも飯を食っても、別れ際にはいつも口喧嘩が始まった。
てめえみたいな下衆野郎は金輪際親でもねえ子でもねえ、と親方は言った。
おう、上等だ。金輪際は二度ねえと思え、この糞爺ィ、と栄治は怒鳴り返した。
その金輪際が月に二度もあった。

コンチキしょー泣かせの浅田め!こんちきしょーめー!!!うううっ。

ところで「ライムライト」という題名を見たら、映画好きの皆さんにはある一作の名画が思い浮かぶのではないでしょうか。

そう、チャップリンの映画「ライムライト」

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表題作の『第六夜 ライムライト』は、昭和7年5月、チャップリンが来日した時のエピソードがからんでいます。

昭和7年といえば5.15事件の年。5.15事件では、かのチャップリンも標的とされていたのをご存知ですか?昭和7年5月15日には、犬養首相とチャップリンが晩餐会を開く予定になっていたのですね。

実際のところチャップリンがどう襲撃から難を逃れたかについては、本でもネットでもいくらでも情報が出てきますので、興味のある方はお調べください(丸投げ?)

天切り松の小説世界では、件のチャップリン先生、実は松蔵の兄貴分“書生常”が変装していたいう種明かし。

嘘かマコトか、果てさて、果てさて?!

「——畏れおおくもチャーリー・チャップリンになりすまして、ピストルの前に身を晒すがよ、万一のときにァあとの始末は頼んだぜ。さあて、天下のトリックスター、百面相の書生常の芸がどこまで通用するものやら、段取りは腹ごしらえをしながら考えるとしよう」
松蔵は思わず闇がたりで引き止めた。
「兄貴、ちょいと待っておくんない。この話はどうにもヤバすぎらあ」
すると常次郎は、たしかに伯爵閣下と見える顔を肩ごしに振り向けた。目ばかりが鷲か鷹のように炯々と光っていた。
待てと言われた盗ッ人の、待ったためしがあるものか。飯にしようぜ」

いやーしかし、この回の常兄ィがカッチョ良いったらありゃしない!

いつもシレーッとクールな面持ちで多少ズルさが鼻についていたものが、チャップリンに当てられたのか妙に素直で、妙に情熱的。

その情熱過多ゆえか、ちょっと失敗しちゃったりもして。やはり詐欺には冷静なズルさが不可欠なのね。でもいーのよ、常次郎さん、それでいーのよ。

『第六夜 ライムライト』の顛末はおいといて、この第六夜で「天切り松闇がたり〈第5巻〉ライムライト」は終了となります。

で、おそらくは天切り松シリーズも、これで最後になるんじゃないかと、思ってましたが…。

このブログを書くために私、天切り松シリーズの<1>から<5>までまとめて読み返していたんですけどね。

時系列がどうもおかしいんですよ。

例えば黄不動の栄治さんは、肺結核で一時期療養していたのですけどね。「<4>昭和侠盗伝」の中では昭和9年にサナトリウムでゴホゴホしてたのが、この「<5>ライムライト」では昭和7年、結核が治ってリハビリ窃盗に励んでる!

あれ?間違い?浅田次郎さん、年表作成してなかったの???

——なーんて重箱のスミをつつこうかと思いましたが、いやいやそれは適切でないと考えなおしました。

そうだ。天切り松はファンタジーなんだ。時空も飛び越えるパラレルワールド。大正浪漫をモチーフとしたファンタジー。

チャップリンが替え玉になっていたのも、竹久夢二がおこん姐さんを描いたのも、森鴎外が窃盗の手引きをしたのも、東郷平八郎の勲章を松蔵が盗んだのも、ファンタジックな浅田マジックです。

つまり、語り手である天切り松じーちゃんもファンタジー世界の住人。

たかだか100歳を超えたくらいで、ファンタジーの住人は死なない。

だから!浅田先生!

天切り松第六巻、いつでもお出しなせぇませ!

あっちらァいつまででもお待ちいたしやす。泣けというなら泣いてみせやす。
銭金じゃ買えない心意気の花を、どうぞもういっぺん、夜空にパッと散らしておくんなせぇ!

…日野原先生の年は超しても、まだまだ上には泉重千代さんもいるからね。
天切り松じーちゃん、まだまだいける。またの闇がたり、お待ちしてます。

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