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浅田次郎「プリズンホテル〈2〉秋 」

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花沢支配人は青ざめた。なんの因果か、今宵、我らが「プリズンホテル」へ投宿するのは、おなじみ任侠大曽根一家御一行様と警視庁青山警察署の酒グセ最悪の慰安旅行団御一行様。そして、いわくありげな旅まわりの元アイドル歌手とその愛人。これは何が起きてもおかしくない…。仲蔵親分の秘めた恋物語も明かされる一泊二日の大騒動。愛憎ぶつかる温泉宿の夜は笑えて、泣けて、眠れない。
(「BOOK」データベースより)

「プリズンホテル〈1〉夏 」でプリズンホテル・ツアーをお楽しみ頂いた皆様に、今度は秋の『奥湯元あじさいホテル』をご紹介しましょう。
 

秋といえば社員旅行のシーズン、なんですかね?
かつてのOLさくらちゃんも、秋には部内の皆様の温泉に浸かって、営業部長と『銀座の恋の物語』をデュエットした(させられた)ことを懐かしく思い出しますが、最近の大手企業さんでは熱海に一泊旅行とかは、もうしないものなんでしょうか。
 

浅田次郎「プリズンホテル〈2〉秋 」でも、とある“カイシャ”の社員旅行のご一行がご宿泊されます。
何の“カイシャ”?
任侠団体専用の、我らがプリズンホテルに到泊するのは、警視庁青山警察署の皆々様。
そして当日は、イケイケの武闘派ヤクザの大曽根一家。稼業のために敵対ヤクザのタマを獲って、警察に自首する鉄砲玉を送るための緊急壮行会。

「東京桜親睦会って言うから、てっきりお身内だと思ったんだ。まさか桜田門の桜だとは……ごめん、すまんな黒田君」
「ごめんですむなら警察はいらないんですよ、支配人さん。ううむ——シャレてる場合じゃねえんだ。夕方には親分、じゃなかった、オーナーもおいでになるし。困ったな、指つめとくか……」

警察とヤクザが温泉宿でまさかのはちあわせ。
さあ、どうするどうなる?

「オーナー、実は不手際がございまして——」
こともあろうに青山警察署の団体客を受け入れてしまったと、支配人は手短かに告げた。
親分は何の動揺もしなかった。唇をひしゃげて笑っただけである。
「それが、どうしたい。客にちげえはねえんだ、ゆっくりくつろいでもらえ。旦那方もさぞお疲れだろう」
この人はもしかしたら、ホテル王と呼ばれるあのクラウンホテルチェーンのオーナーよりも、ずっと偉い人かも知れないと、そのとき花沢支配人は思った。

<秋>にも、極道作家の木戸孝之介が登場します。
でも今回の同行者は、愛人のパープーお清さんではありません。清子の娘のミカちゃんが、清子の代わりに秘書役としてやってきます。
生まれついての苦労人のミカちゃん、若干6歳にして食事の支度から掃除洗濯のおしん生活。母の愛人の風呂上りに東神田木戸衣料謹製のメリヤスパンツをお渡しするなど造作もございません。
 

あいかわらず、その他のフリー客もお騒がせ人だらけ。
マスコミから身を隠した名シンガーから、指名手配中の集金強盗、ドサまわりの演歌歌手とそのヒモマネージャーも。
 

警察団体とヤクザ団体と、演歌歌手と借金強盗が絡み合っちゃうもんだから、大宴会場で行われるディナーショーは大振りの出刃包丁と煮えたぎった拳銃の弾が飛び交う大騒ぎです。
6歳のミカちゃんまで名刀・千代鶴を振り回し、果たして生きて帰れるのかプリズンホテル?!

「動機もわからん、誰かもわからんじゃ、化けて出るにも困るな…なあ、アキラ」
「おたげえ、苦労な人生だったな、旦那」
「ああ…今度うまれてくるときは、おまわりだけはやめよう」
「そうだな…俺もヤクザだけはやめる…だんだん弾道が下がってきやがった。慣れてきたんだな…旦那…次は、来るぜ」
五発目の弾丸が風を感じるほどスレスレに、二つの坊主頭の上をかすめて行った。

もうね、プリズンホテルは忙しいんですよ。
登場するエピソードを全て書いていったら、このブログが大長編になっちゃう。
まだ紹介していないエピソードは腐るほどあるんです。木戸先生と愛人清子さんの関係とか、木戸先生を捨てた母との再会とか、後添いの富江さんとの関わりとか、花沢支配人の息子とか、シェフ服部と梶板長のライバル関係とか、その他もろもろもろもろ…。

よくもまあ文庫本1冊にこれだけ詰め込めるもんだ。おせち料理のお重のように隙間なくみっちりと詰め込まれたエピソードは、あれもこれもと箸を伸ばすのも追いつかない忙しさ。
カマボコを食べるか、伊達巻にするか、田作りか煮しめかカズノコか。
 

秋の終わりのプリズンホテルは、三段重ねのお重に詰め込まれたおせち料理の味わいです。
ついつい止まらなくなる箸を、ぐっとこらえてじっくりお楽しみください。

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