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桐野夏生「OUT」

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深夜の弁当工場で働く主婦たちは、それぞれの胸の内に得体の知れない不安と失望を抱えていた。「こんな暮らしから脱け出したい」そう心中で叫ぶ彼女たちの生活を外へと導いたのは、思いもよらぬ事件だった。なぜ彼女たちは、パート仲間が殺した夫の死体をバラバラにして捨てたのか?犯罪小説の到達点。’98年日本推理作家協会賞受賞。
(「BOOK」データベースより)

どこかで聞いた話では、バラバラ殺人の犯人は女性の方が多いらしいです。

理由は『捨てやすいから』

確かにねー!もし私がダンナを殺したとしても、死体の捨て場所に困りますものね(いや、もっと困るところは他にも…)成人男性をまるごと持ち運ぶのは大変。

だったらパーツ毎に分割した方が、まだ運搬しやすいかと。東京都推奨45Lごみ袋にも入るし。

…よし!

「師匠。袋を二重にして五十個の生ゴミとして出すとしたら、どうすればいいかな」
「まず関節ごとに切ってさ。それからなるべく細かくしたほうがいいんじゃない」

主人公の雅子をはじめ「OUT」の女達は弁当工場で働く仲間です。お仕事上でもチームを組むことが多い彼女達は、死体の解体作業でもチームワークが抜群。

この本の中では雅子と師匠は都合3件の死体解体を請け負いますが、回を追うごとにノウハウを得て、解体スキルを上げていく彼女達にうっとり。やっぱり仕事の段取りが良いと、何かと役にたつよねえ。

ちなみに、彼女達が最初に解体した死体は、雅子とも師匠とも直接の関わりはない人物です。
死んだのは弁当工場のパート仲間、弥生のご主人。家の貯金をバカラにつぎこんだ亭主に腹をたてて「ついやっちまった」殺人を隠蔽するための死体遺棄でした。

殺人を隠蔽しようと持ちかけたのも、バラバラにして捨てようと考えついたのも、実際にバラバラにしたのも、主人公の雅子。

ビジネス?いえいえ、雅子自身は報酬は求めておりません。

「でも」ヨシエは抗議するように顔を上げた。「あたしはあんたに義理があるからやるんだよ。仕方なくね・でも、どうして、あんたそこまで山ちゃんのためにやるのよ」
「さあ、どうしてなのかあたしにもわからない。でも、あたしはあんたが同じことしたってやるよ」
ヨシエは言葉もなく黙り込んだ。

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「OUT」の登場人物は、どいつもこいつもどこか破綻して「社会の底辺」を這い回っている人達です。

深夜勤務の工場パート。DVを受ける妻。姑の介護に疲れきった女。水商売にも断られるデブス。刑務所帰りのバカラ賭博オーナー。ブラジル出稼ぎ労働者。チンピラの借金取り。ギャンブル狂い。フリーター。あとは何だっけ。まあ、底辺見本市みたいな物とお考えください。実際には、リアル社会でお弁当作っている人に「底辺」なんて職業差別甚だしいですけどね。小説だから。

どいつもこいつもド底辺の奴らが、ギャンブルで貯金を使い込んだり、ついうっかりダンナを殺したり、サラ金で自転車操業をしたり、娘が出戻ったり、風呂場で死体を解体したり、ついでにそれを職業にしたりしてまあ大変。

ではこの本のタイトル「OUT」は、一般的な社会から脱落しているという意味の「OUT」なのでしょうか?

いえいえ、「OUT」にはもうひとつの意味がある。

脱出。

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脱出。何から脱出して、どこに行こうとしているのか。わからなかった。カズオはつぶやいた。
「寂しすぎます。可哀相」
「でも」雅子は首を振り、膝を抱えた。「私は可哀相じゃない。私は自由になりたかったから。これでいい」
「そうですか」
「たとえ死んでも、これでいい。あたしは絶望してたから」
カズオの顔がさっと曇った。
「何に」
「生きることに」

生きることに絶望、していることにすら気付いていなかった雅子は、最初の死体損壊から繋がるいくつかの事件によって、どんどん心の筋肉を増していきます。

弥生の夫を殺した容疑で誤認逮捕された男・佐竹が、復讐のために追ってくるあたりでは、もうギッチギチのハードボイルド。「工場パートの普通のオバチャン」の姿は、佐竹との最後の対決シーンでは全く姿を消しています。

「憎いんだろう。俺も憎い」
「なぜ憎むの」
「おまえが女だからだ」
「だったら、殺してよ」
雅子が悔しそうに叫ぶ。まだわかっていないのか。あの女は理解してくれたのに。佐竹は苛立ち、雅子の顔を数回平手で殴った。
「あんたは毀れてる」雅子はまた叫んだ。
「そうだよ。おまえも毀れてるんだ。俺は最初見た時からわかってた」

よくよく考えてみれば、「OUT」の登場人物達は、誰もが最終的には何処かしらに“OUT”する結末となります。良かれ悪しかれ。

でも、主人公の雅子は、この先どこに“OUT”するんだろう?5600万の現金を持ってブラジルに逃げ果せることができるのか。それとも警察に捕まるのか。

『背中でドアが閉まったのなら、新しいドアを見つけて開けるしかない』彼女の脱出劇は、まだまだ続く。

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