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星新一「マイ国家」

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マイホームを“マイ国家”として独立宣言した男がいた。訪れた銀行外勤係は、不法侵入・スパイ容疑で、たちまち逮捕。犯罪か?狂気か?―世間の常識や通念を、新鮮奇抜な発想でくつがえし、一見平和な文明社会にひそむ恐怖と幻想を、冴えた皮肉とユーモアでとらえたショートショート31編。卓抜なアイディアとプロットを縦横に織りなして、夢の飛翔へと誘う魔法のカーペット。
(「BOOK」データベースより)

星新一のショートショートは、不思議不思議の世界を堪能する系と、ちょっとだけ、背筋がゾッとする系があります。
厳密に言えば、どの一編も上記のどちらとも包含してはいますが。ま、ちょっと、ここではざっくりと分けさせてください。
 

“ゾッとする”成分を多く含むショートショートが集まったのが、この「マイ国家」
特に表題作の『マイ国家』これ、怖いです。不条理系の怖さ。
この一編だけを取り出して、作者名を伏せて読ませられたとしたら、星新一というより安部公房と答える人もいるのじゃなかろうか。
いや、どうだろう。やっぱり星新一と正解するかしら?
独特の、あの乾いたホシ文体は、作者名を伏せてもかわってしまうものかしら。

ある日のこと。パーティーでウサギが酒を飲んでいた。スタイルも身だしなみも、頭の回転も悪くない。プレイボーイを絵に描いたようなウサギだった。巧みな冗談をしゃべり、あたりの女性たちを引きつけていた。
その時、ひとりの女が、いじの悪いことを言った。
「でも、あなた、競争じゃカメに勝てないんでしょ」
これが、そもそもの悲劇のはじまり。
(ねむりウサギ)

表題作『マイ国家』について語りたいところもありますが、今回はホシ版「うさぎとカメ」の『ねむりウサギ』など。

上記にて引用した『ねむりウサギ』は、イソップ物語「うさぎとカメ」の後日談…と言いましょうか、ウサギもカメもイソップと同じ個体ということではなさそうなので、ウサギという種、ウサギという存在に流れるかけっこDNAを元とした一編です。
 

皆様ご承知のとおり、ウサギはかけっこでは、カメには決して勝てないものです。
というか、カメは結構、大抵のかけっこに勝てる。ほら、俊足のアキレスも、カメには追いつけないでしょ?
 

でも、自らの運命を許容できないうさぎちゃん。
彼の終わりなき戦いが、今ここに始まる…!

スタートの号砲が響き、レースは開始された。ウサギの走り方は、まさに一級の芸術品。風を切ってというより、自己が一陣の風と化し、大気のなかを流れ去った。観客に与えるその効果を、ウサギは自分でも意識していた。その美しいスタイルとペースを乱すことなく走りつづけ、丘の上へと到達した。

しかし、ここでゴールとなっちゃ、お話にもなりませんな。
道を間違えて他の丘まで走っていったウサギさん。いかに足が速かろうと、ゴールまで辿りつけなかったら、負けは負け。
 

でも、自らの過ちを許容できないうさぎちゃん。
彼の終わりなき戦いが、今ここに始まる…!
 

レース再挑戦の前日には、ヤケのやんぱちでドンチャン騒ぎ。アルコールも抜けない千鳥足でリタイア。
さらに再レースの日には、よく眠れるようにと前夜に飲んだ睡眠薬が効きすぎて、丘の中腹で昏倒。
 

でも、自らの不覚を許容できないうさぎちゃん。
彼の終わりなき戦いが、今ここに始まる…!

スタートとともに、ウサギは走った。丘の中腹も過ぎた。進むのをはばむ透明な壁が消えたようだった。もはや頂上は目前。もちろん、カメははるかあとだ。ゴールのテープにむかって、身を躍らせる……。

『ねむりウサギ』で、果たしてウサギはカメに勝てたのか?!
 

……しかし皆様ご承知のとおり、ウサギはかけっこでは、カメには決して勝てないものです。
というか、カメは結構、大抵のかけっこに勝てる。ほら、俊足のアキレスも、カメには追いつけないでしょ?
 

誰もがわかっている結末だけど、それだけじゃ終わらない皮肉なホシ印。
鶴は千年、亀は万年。
作者名を伏せようが伏せなかろうが、わかっちゃうのがホシ印。大人も楽しむ皮肉なイソップでございます。

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