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平山夢明「東京伝説―呪われた街の怖い話」

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“ぬるい怖さ”は、もういらない。今や、枕元に深夜立っている白い影よりも、サバイバルナイフを口にくわえながらベランダに立っている影のほうが確実に怖い時代なのである。本書は、記憶のミスや執拗な復讐、通り魔や変質者、強迫観念や妄想が引き起こす怖くて奇妙な四十八話の悪夢が、ぎっしりとつまっている。現実と噂の怪しい境界から漏れだした毒は、必ずや、読む者の脳髄を震えさせるであろう。
(「BOOK」データベースより)

こういう感想は、作者の平山夢明さんには失礼な言い草かとは存じますが。
ゲッスい話を読みたい時に、手に取るシリーズの一冊であります。

閉めたはずの扉がほんの少し開いていた。
凍りついた染谷さんがゆっくり視線を送ると……見慣れた洋服のすき間から包丁を握り氏しめた人の腕が見えた。見上げると暗い目をした男が睨んでいた。
“だいじょうぶだいじょうぶ”ささやくような声がした。

平山夢明の「東京伝説シリーズ」って、すっごく沢山あるんですよ。都市伝説まとめだけじゃなくって、実話系怖い話もさらに沢山。
どれも読みきりで、正直どれを読んでも大して変わりない(笑)です。
どのエピソードがどの本に収録されているのか、果たしてこの本は既読なのか未読なのか、わーからーなーいー。
でも良いんです。本がゴッチャになっても、エピソードがゴッチャになっても。
何度読んでも大丈夫。大体がところ、読み終わってページを閉じた瞬間に、何が書いてあったのかを忘れちゃうから。
 

いや、ゴメン!ゴメンね平山夢明さん!
すっごい失礼な事言ってますけど、嫌いじゃないの!嫌いじゃないのよ!
どの本も「うひー、怖えー」と読んで、エグエグゾクゾク震えながら、ちょっと下衆な好奇心が刺激される快楽を味わえます。
ちょっと下衆、ってのも、かなり、失礼。

「痒い痒いって……尋常な態度じゃなかった」
あまりの勢いにタオルケットが外れてしまうと次に彼女は自分の顔をじかに掻きむしりはじめた。瞬く間に顔は皮膚が破れ、何本の掻き傷から出血しはじめた。
—(中略)—
目はつぶっていた。しかし、彼はその瞼の下から小さな綿ぼこりが噴きこぼれているのに気がついた。それはコブのついた小さな短い種のように見えたという。
「青い蟲だった」
彼女は両目から蟲の幼虫を次から次へと溢れさせたまま悲鳴を上げ続けた。
「かゆいかゆいかゆいかゆい」

ドアがきしみながら開いたとたん、彼を強烈な臭気が襲った。
「人間の排泄物と病気の動物の臭いでした」
外の明かりが差し込むとそこにも数十人の人間が詰め込まれていた。
「ウワァ……人間の缶詰だって思いました」

この「東京伝説―呪われた街の怖い話」は、幽霊話とかオカルト系ではなく、東京で生活する上で体験する身近な恐怖や、サイコパス、不条理な災難が題材になっています。
いやでもね、東京ってそんなに、怖いか?生まれてこの方東京砂漠の住民だけど、この本に出てくるような怖いこと、いままで一度もないけどなあ。
ヤクザも酔っ払いもキ○ガイも、日本全国どこにでも居ますし。そう考えると、舞台が東京でなくっても、どこででも在り得る怖さなのかもしれません。
「ねーよ!」と笑い飛ばすか、「もしあったら怖いよねー」と対岸の火事を覗き見るか、「こんな目にあわないように身を慎んで生活しよう」と自らを戒めるか。
だけど、わからないよ?
対岸の火事だと思っていたら、炎はあなたの背中で燃えているのかもしれない。

「ごめんね…ごめんね」
男はうずくまっているひろこさんの髪をつかむと鋏で切った。
「今でも耳元でジョッキリっていう髪を切る音は駄目なんです」
恐ろしさで震えているひろこさんが顔を上げると男は切り取った髪を口のなかに入れ、噛みはじめた。ゴクッと男が飲み下すのがわかった。
「ごめんねごめんね」
男はそう言うと彼女の頭をつかんで壁に打ちつけた。

「東京伝説―呪われた街の怖い話」のどのエピソードも、「うひー、怖えー」と読んで、エグエグゾクゾク震えながら、ちょっと下衆な好奇心が刺激される快楽を味わえます。
嫌いじゃないの。決して嫌いじゃないのよ。

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