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スティーヴン・キング「深夜勤務」

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16年前に兄を殺した不良少年たちが、当時の姿で転校してきた!高校教師を脅かす悪夢『やつらはときどき帰ってくる』、腐ったビールを飲んで、怪物と化してしまった父親を描く『灰色のかたまり』、血の味にめざめたクリーニング工場の機械がおこす血なまぐさい惨劇『人間圧搾機』、宇宙飛行士の手の中に寄生した異星生物と、その不気味な行動『やつらの出入口』、暗い汚水溜の中、信じられない出来事が連続して起きる『地下室の悪夢』、ラヴクラフトの暗黒世界に挑んだ『呪れた村〈ジェルサレムズ・ロット〉』など、鬼才キングが若さと才能のすべてをぶつけた傑作短編集『ナイトシフト』ここに登場。
(「BOOK」データベースより)

キング短編集の中でも、この「深夜勤務」は他にも増してB級チックな香りがプンプンする作品が詰まっています。

もともとはアメリカで発刊された「ナイト・シフト」というシリーズを分割しただけなので、何故に「深夜勤務」にばかりB級スメルの短編が集まったのかは謎。日本の編集者の好みなのかしら。

キングホラーの長編小説では欠かせない、人間的な哀しみというものは短編では殆ど邪魔な要素として排除されています。

ほら、さくっと暇な日曜日に読書するにあたっては、ヒューマンドラマは重過ぎるし。
娯楽としての読書にふさわしく、全体に満ちたやっすーいB級映画感。好きですけどね。

B級映画感を演出する、キュートな怪物くんたちのラインナップといえば。

腐ったビールを飲んで灰色のゼリー状物質に変貌してしまったアル中のおとうさんとか。

手の平に寄生した大量の目玉とか。

宅配便で送られてきたミニチュア兵士とか。

チープでキュート(で気色悪い)な怪物くんたちの中でも「深夜勤務」ナンバーワンB級モンスターと言えば!

———洗濯物のプレス機。

「深夜勤務」の中の一作品『人間圧搾機』は、実際にアメリカで『マングラー』という映画になっているそうです。

いや、正にB級映画!いやC級映画!とかいって、見たことないけど。多分。

そもそも題材的に、洗濯物プレス機が感動のヒューマンドラマになり得る筈がありません。

機械はまだ動いていた。だれもスイッチを切らなかったのだ。後になって、彼はその機械についてもっと詳しいことを知った。それはハドレー・ワトソン式高速仕上げ・折りたたみ機六型という代物だった。長ったらしくて、ぶさいくな名前。蒸気と湿気でむんむんするこの作業場で働いている人たちは、もっとましな名前をつけていた。圧搾機というのだ。

とあるクリーニング工場で、人身事故が起こりました。

原因となったのは、クリーニング工場で洗濯物をプレスする大型機械。素晴しいですこれ、洗濯した衣服を入れると自動でアイロンをかけて、たたんだ状態で出てくるらしいです。便利ね。ハイテクね。

その機械『ハドレー・ワトソン式高速仕上げ・折りたたみ機六型』に、挟まれてしまった、パートタイマーのアデル・フローリー夫人。

通常ならば当然、人が挟まったりしたら安全機能により機械が停止する筈でしたが、その時は一切止まることなく、機械は動き続け。

周囲の人間が慌てて主電源を切ったにもかかわらず、機械は動き続け。

…するとどうなるかは皆さん、ご想像がつきますわよね?

「機械はすべてをたたもうとしたんだ」胆汁が喉もとまでこみ上げてくるのを感じながら、ハントンはジャクソンにいった。「でも、人間はシーツじゃないだろ、マーク。おれの見たものは……彼女の死体のうちで残っていたものは……」運の悪い作業監督のスタナー同様、彼もその言葉を終わりまで口にすることができなかった。「亡骸をバスケットに入れて運び出したというわけだ」ハントンはかぼそい声でいった。

ゴッド・ブレス・ユーじゃあ、ありませんよ。ゴッド・プレス・ユーですわよ?

奇怪な事故を捜査していた刑事さんたち。

状況が明らかになるにつれ、「マングラー」に対してある疑惑を抱き始めました。

『このプレス機、悪魔が取り憑いてるんじゃね?』ってあなた、よくこの二十一世紀に悪魔なんて思い至ったな。

しかし調べ始めると出るわ出るわ、何らかの存在に悪魔を取り憑かせるためのアイテムの数々。そこらで飛んでいただろうコウモリとかね。処女の血とかね。なかなか入手しづらいであろう“栄光の手”なるアイテムも、実は鼻炎薬の成分で代用できちゃった!とか。

結構悪魔を呼び出すのって簡単だな、おい。

「…それで、指を切ってしまって、そこらじゅうに血がついてしまったんです」ギリアン夫人はそこで、ふっと思案するような顔をした。「ボルトが抜け落ちるようになったのは、それから後のことなんです。アデルは……ご存じのように……それから一週間ほどあとで……。まるであの機械が血の味を知って、その味を気にいったみたい。女ってときどきおかしなことを考えるでしょ、ヒントンさん?」

やっべーよやっべーよ、クリーニング屋の機械が悪魔になっちまったよ、と怯える刑事さん。

でも何とかしなくちゃね、このままじゃいけないもんね、と、刑事さんたちは悪魔をやっつけるために夜中にくだんのクリーニング工場に忍び込みます。

だから、なんで二人っきりで行くんだよ!

なんで夜に行くんだよ!

どうしてプロフェッショナル(神父さんとかね)の力を借りないんだよ!

ホラー映画でまっさきに死亡フラグが立ちそうな、夜の森でいちゃつくカップルのような浅慮さにB級感プンプン。

まあ、この後に刑事さんと洗濯プレス機の直接対決が行われる、というのは想像の範囲内であろうと思われますが、夜のクリーニング工場の怪物マングラーくんの姿は想像をはるかに超えたB級、いやC級感!

大型プレス機にニョキニョキ手足が生えて、刑事たちの目前で立ち上がった!

トランスフォーマー!

もう、大好き。B級C級どころじゃない、もうZ級までブッ飛んでます。

あんまり物事を深く考えたくないときに、アメリカンコミックを読むようなつもりで「深夜勤務」はお楽しみください。

いやけなしてないよ。大好きよ。超楽しい。いやーキング、たまらんなあ。

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