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多田由美「お陽様なんか出なくてもかまわない」

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ツイてない男なんて、どこにだっている。でも、まさかこの俺が…。ハード・ロックのリズムが聞こえる多田由美の豪華傑作集!
(Amazon内容紹介より)

多田由美を評して、江口寿史がこう言ったことがありました。

「タランティーノだウォン・カーウァイだのと言う前に、日本の多田由美を読みなさい!」

遅筆と執筆放棄の常連者同士、相通ずるものがあるのか。
そういえばウォン・カーウァイも最近聞かなくなりましたね。金城武好きだったんだけどなぁ。
 

さて。そんな多田由美の新刊本が、ほんっとうに久方ぶりの十何年ぶりかで出版されたらしいという事を聞きました。
多田由美といえば1980年代に少女マンガ愛好者達の伝説。いやマジ神。
フランス革命とか紫のバラの人とかそばかすなんて気にしないとか花よりダンゴが美味しいよねとかの、王道少女漫画とは対極にある、別の世界の伝説。
 

多田由美の漫画は、たった一言で言い表せます。
アメリカ。

「お陽様なんか出なくてもかまわない」をはじめとして、多田由美の漫画はどの作品も1970年代あたりのアメリカを舞台とした市井の人々の日常を描いています。
1970年代といえば、戦後のパリッパリのアメリカから一転、ベトナム戦争を経て経済不況に陥ったあたり。ウォーターゲート事件もここいらへんですね。
全体的に厭世的な世情と、虚無感がアメリカを覆っています。多田由美の漫画に登場する人間たちも、皆さん後ろ向きで、見えない重石を乗っけられている印象。

いつも同じテーマを書いている。登場人物の精神的欠陥は、即ち私自身のものである。潔癖で、暴力的で、セックスレスで、マザコンで、嘘つきで、自己中心的で……

ただまあそれがいちいち格好良いこと!
表題作「お陽様なんか出なくてもかまわない」の主人公ロニーをはじめ、若者たちは総じてNYパンクで身を固めたファッション。
セックス・ピストルズ系のファッションをご想像くださいまし。あ、ピストルズはイギリスか。じゃあラモーンズ?うーんちょっと違う。
やっぱりセックス・ピストルズ。それも、大人になっちゃったジョン・ライドンの方じゃなくって、オーバードーズで死んだヤク中の破滅主義者、シド・ヴィシャスの方がしっくりきますね。
 

多田由美の漫画はどの話でも、どのシーンでも、極端に台詞と擬音が少なく、静止画をひたすら積み上げたような作りをしています。
漫画というより映画のカット割りみたいです。で、描かれる絵がいちいち格好良い。男が火を点けるタバコの細さにすらうっとりしちゃいます。
殺し屋の黒いコートの裾とかね。女が缶を開けるときの指のこわばりとかね。
 

日本のマンガが“クール”だと言うけれど、多田由美の“クール”は、日本とアメリカが融合したクールです。
最新作が楽しみではあるんだけど、昔の作品も読み返したい私ですのよ。
久方ぶりの新刊発表にあわせて、過去の本も再販していただけないものかしら。いただけないものかしらー!

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