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北原みのり「毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記」

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“ブス”をあざける男たち。佳苗は、そんな男たちを嘲笑うように利用した。「週刊朝日」で話題沸騰の著者、渾身のレポート。
(「BOOK」データベースより)

「首都圏連続不審死事件」の犯人として逮捕・死刑判決を受けた木嶋佳苗。

彼女についてと、事件については、テレビでも新聞でもさんざん出ているので説明省略。

その木嶋佳苗の裁判傍聴記を、最近2冊読みました。

内1冊が、本日のタイトル「毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記」アダルトショップ経営者&コラムニストの北原みのりが書いたもの。

そしてもう1冊は「別海から来た女」ノンフィクション作家の佐野眞一が書いたもの。
男から見た木嶋佳苗と、女から見た木嶋佳苗。

今回の ほんのむし は、ちょっと変則的な2冊並行書評。今日と明日の2日間、同じ本を取り上げてまいります。

それぞれの著者がはじめて木嶋佳苗を見た初見から、北原みのりと佐野眞一は全く異なる印象を抱きます。

1月11日、第2回公判を傍聴した。法廷に入るなり、被告人席に座る佳苗と目があった。入廷してくる傍聴人を数えるように見渡していたのだ。テレビや新聞の写真で見慣れていたつもりだったが、一瞬、本人とはわからなかった。
・・・(中略)・・・大きく胸の開いた薄いピンクのツインニットからのぞく肌の白さにハッとした。シミひとつない完璧な白、絹のような美肌だ。さらに机の上に重ねられた手は、ぷくぷくと丸く、指の関節はピンクで柔らかそう。触りたい、と思った。
(「毒婦。」より)

傍聴席の一番前に陣取って、弁護側席に座っている小太りの女を見たとき、なぜこんなところに裁判所の事務員がいるのかと、不思議に思った。事務員にしては服装が派手なのも奇妙だった。
・・・(中略)・・・どこにでもいそうなおばさんに不釣合いな化粧をほどこした顔には、昭和の香りが濃厚に漂っていた。時代からひとり浮いたそのずれが、木嶋の異常性を一層際立たせていた。
(「別海から来た女」より)

上の引用だけを読むと、北原みのりは木嶋佳苗に対して好感情、対して佐野眞一は悪感情を抱いているようにも思えますが、別に北原みのりが木嶋佳苗を身贔屓にしている訳ではなく、あくまでもフラットな初見の印象。

佐野眞一の方は悪意プンプン感じますね。

まあでも、佐野眞一は木嶋佳苗を『木嶋』と称し、北原みのりは木嶋佳苗を『佳苗』と、そもそもの呼称から違う。そこからも双方の立ち位置は見えるような気がします。

ドキュメンタリーの構成も、2冊は大きく異なります。

「別海から来た女」は、木嶋佳苗の出身地である北海道野付郡の別海町での取材に大きくページをさいて、木嶋佳苗の生い立ちや、周囲の人物の声から人物像を浮き立たせていこうとしています。

対して「毒婦。」は、法廷での木嶋佳苗の姿が中心。別海町その他でも独自で取材はしているものの、基本的には“ナマ佳苗”に焦点をあてている本です。

どちらが“木嶋佳苗”の姿をより捉えられているかというと…うーん正直、どちらも成功しているとは言い難いかなあ。

回りから囲ってみても、ナマ佳苗のいくら細かい姿を描写しても、“木嶋佳苗”なる人物はスルリスルリと二人の手からすり抜けていくばかりなのです。

では、殺害された、もしくは詐欺被害にあった被害者に対してはどうでしょう?

こちらの書き方も、2冊では大きな違いが。

「毒婦。」の方では、それぞれの男性に木嶋佳苗が送ったメールを中心に、男性を描いています。

『料理OK、介護OK、避妊なしのセックスOK』という、男にとって都合の良い女感を前面に押し出しつつ、あからさまに金銭を要求するスピーディな荒技は、がっちり主導権が木嶋佳苗の手にある事が伺える。

当の男性に対してはというと、都合4回も睡眠薬を盛られて昏倒させられているにも関わらず、まだ誘われてホテルに入っちゃう男性の無邪気さ、というか危機意識のなさに違和感を感じ、

「中出しは言われたままするのに、結婚は親に反対されたからダメだなんておかしいよ」という傍聴席の見知らぬ若い女性の言葉から、

女はとっくに白馬の王子なんて、この国にいないことを知っているというのに。それなのに、男は婚活サイトというシビアな市場を利用しながらも、呑気にカボチャの馬車に乗った姫が、自分の目の前に現れるとでも思っているの?お姫様にあげるガラスの靴すら、持っていないというのに。
(「毒婦。」より)

単純に、男ってばかね、と笑えない自分を感じています。

対して「別海から来た女」は、逮捕当日まで一緒にいた男性への単独インタビューにて

——ところで、木嶋に死刑判決が出ましたが、どう思いましたか?
「まあ自業(自得)で、当たり前じゃないかという感じですよね。最初は、あの世で(殺した人に)謝ってこいって思ったけど、やつは天国に行けないから(笑)謝りに行けないので」
・・・(中略)・・・
「あのときは、自分は鬱状態で寂しくてたまんなくて。だから一緒に暮らしてくれるなら、会話してくれるなら、それだけでラッキーって。もう誰でもいいっていうか。だからなぜあんなブスとって。思われるかもしれないけど、もう容姿とかはどうでも良いって感じで。でも、最初、彼女の容姿を見たときは『うわっ』とは思ったけど、一緒に暮らしてくれるなら、寂しさが紛れるなら、それでいいかって…」
田中は木嶋との生活を思い出して、ひとしきり感慨にふけっているようだった。半べそ状態になった情けない顔に、その気持ちが素直に見てとれた。
(「別海から来た女」より)

後からだったら何とでも言えるよねという男の言い訳臭プンプンにも、そっと寄り添うのは男同士の連帯感?

加害者と被害者の、どちらを題材にしても、男目線と女目線の違いをひしひしと感じる2冊です。

100日裁判のまだ先は長し。

続きは、佐野眞一「別海から来た女――木嶋佳苗_悪魔祓いの百日裁判」で。

佐野眞一「別海から来た女――木嶋佳苗_悪魔祓いの百日裁判」

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