貴志祐介「天使の囀り」

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北島早苗は、ホスピスで終末期医療に携わる精神科医。恋人で作家の高梨は、病的な死恐怖症だったが、新聞社主催のアマゾン調査隊に参加してからは、人格が異様な変容を見せ、あれほど怖れていた『死』に魅せられたように、自殺してしまう。さらに、調査隊の他のメンバーも、次々と異常な方法で自殺を遂げていることがわかる。アマゾンで、いったい何が起きたのか?高梨が死の直前に残した「天使の囀りが聞こえる」という言葉は、何を意味するのか?前人未到の恐怖が、あなたを襲う。
(「BOOK」データベースより)

シカクいアタマをマルくする。 の日能研が電車広告で出している、中学受験の過去問にこんな問題がありました。

「ダンゴムシは、ある種のウィルスに感染すると体の色が青くなるということが報告されています。普通のダンゴムシは暗いところに隠れる習性がありますが、青いダンゴムシは明るいところに出てきやすくなります。このような体の色や習性の変化は、感染したウィルスにとってはどのような利点があると考えられますか。簡単に説明しなさい。」
(2015年 駒場東邦中学校入試問題より)

通勤電車で同僚と、あーだこーだとアタマを捻らせて。
結局のところ、大人二名が出した解答は

『食べられたいんじゃね?』

解答と出題意図を知りたい人はこちら ⇒ 日能研ウェブサイト

しかしいやはや。中学受験って、大変だねえ。

「ブラジル脳線虫は、サルに、何をさせるんですか?」
「ブレイン・ワームがアリにすることと同じだ。捕食者に喰われるように仕向けるんだよ」
依田は、こともなげに答えた。

ダンゴムシがある種のウィルスに感染したら、天敵に食べられやすくなるように身体と行動を支配される。
そんなウィルスがいるんだったら、ダンゴムシ以外にも、同じ意図を持つウィルスかなんか居てもおかしくないんじゃない?
……というのが、「天使の囀り」の主題であります。あっネタバレごめん。でも大丈夫。ネタバレても楽しいから。

ブラジルのアマゾン調査隊ご一行、言うなれば川口浩探検隊みたいなのが(違うか)密林ジャングルで遭難しかけて、飢えをしのぐために捕まえたサルを食べたところから話はスタート。
恋人がアマゾン探検隊に参加していた主人公の早苗さん、日本に帰還した彼の姿にちょっと違和感がありました。いやちょっとどころじゃないですね。腺病質で内省的だった彼が、妙にハイテンションで食欲旺盛、性欲も旺盛。「生きるってラ・ラ・ラ素晴しい~♪」なポジティブ男に変貌します。
正確には「生きるって素晴しい」というより、「死ぬって素晴しい」
誰でも死ぬのは恐ろしいけれども、彼はもちょっと凝り固まったタナトフォービア(死・恐怖症)だったのに、180度の転換はこれいかに?

早苗さんの心配をよそに、彼、高梨さん。死ぬのがあんまりにも素晴しすぎて、さっさと自分から“死”とお友達になってしまいました。
はい、高梨先生、さくっと退場~。

彼の死に納得がいかない早苗さん、調べていくうちに不可思議な偶然を知ります。

探検隊のひとりが、サファリパーク内で車から飛び降りて、サファリゾーンの動物に襲われて死亡。彼は猫科の動物が死ぬほど嫌いだった筈なのに。
そしてもうひとりが、娘を線路に突き落として、後追いするように一緒に死亡。彼女は子供を失うことを何よりも恐れていたのに。

他にも。
醜形恐怖の男性が、自分の顔を薬品で溶かして死亡。
潔癖症の少女が、ヘドロの沼で溺れて死亡。
先端恐怖症の女性が、ナイフの先っぽで自分の眼球を突いて死亡。

あれれ?おっかしーぞー?(←コナン風)
他の皆さんは、アマゾン探検隊のメンバーじゃないぞー?

「天使の囀り」で登場する架空の寄生虫“ブラジル脳線虫”は、寄生された人間がそれぞれ持っている恐怖心を快楽にスイッチしてくれる働きがあります。
ほら、元々寄生されていたジャングルの猿だったら、肉食獣に襲われるのが一番の恐怖じゃない?
本来なら捕食者から逃れるために、隠れたり、逃げたりするのですが、ブラジル脳線虫に寄生された猿は「食べられる→怖い→スイッチ→快楽→食べられたい」と線虫に脳を操作されて、自ら肉食獣の元へ身を投げ出すようになるのです。
つまり、青いダンゴムシと同じね。

だから、ブラジル脳線虫に寄生された人間も、各人の恐怖対象が、一番の快楽になってしまいます。
とはいえ、今の日本では肉食獣が街を跋扈してはおりませんのでね。
死ぬ人もいるけれど、死なない人もいる。
死なない人がどうなるか…ってーのは、最後のお楽しみでございます。グロ注意。

そして「天使の囀り」でググっとグロ系の楽しみは、クライマックスシーンの別荘!風呂!人間団子!もさることながら、個人的にはオタゲー好きフリーター信一くんの恐怖→快楽スイッチのくだりが、一番のうっひゃーポイントでございます。

信一くんが何よりも怖いのは、蜘蛛。

蜘蛛への恐怖が、快楽にスイッチしたら。

はい、蜘蛛嫌いの皆さん全員集合!以下の引用文をねっとりみっちり読み込んで、背中を蜘蛛が駆け上るような悪寒に身をふるわせてくれ給え!

涙があふれ、目尻を伝って、ぽろぽろとこぼれ落ちる。
だが、それは、恐怖や悲しみではなく、随喜の涙だった。
—(中略)—
信一は、服を脱ぎ捨てた。一糸まとわぬ裸になると、蜘蛛の巣の中に右腕を突っ込んだ。さらに、ぐるぐる回転しながら、綿菓子を作る要領で、身体全体に蜘蛛の糸を絡め取っ手いく。
蜘蛛の巣と一緒に、何十匹もの蜘蛛が、彼の身体にまとわりついた。せっかくの食事を中断されて怒った蜘蛛は、信一の首筋や腕にところかまわず噛みつく。
おぞましさや痛みまでもが無上の喜びに感じられるのは、なぜだろう。
恍惚感の火花が、頭の中で弾ける。信一は、そのまま仰向けに床の上に寝そべった。背中の下で、次々と蜘蛛が潰れていく感触。その瞬間、彼は射精していた。

ダンゴムシにはじまり、蜘蛛に終わる本日のブログ。
我が娘がもし読んだら、発狂するな。全国の虫嫌いの皆さん、ごめんなさい。

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レビュアー: さくら
さくら
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