筒井康孝「心狸学・社怪学」

スポンサーリンク

臓器移植の諸問題が解決した時代。交通事故で瀕死の重傷を負った作家が、手術の結果一命をとりとめた。ただし、胃袋はブタ、心臓はイヌ、肝臓はウマのものだった。その結果…。(条件反射) 宇宙中継用の有人通信衛星が開発された時代。男は、奇妙なものが衛星からのTV画面に映しだされるのを見て仰天した。なぜ、さきぼど青山墓地で脱ぎすてた自分のステテコが宇宙空間を漂っているのか…?(睡眠暗示) 脳の移植手術が可能になった時代。重態に陥った3人の大臣の脳が移植された。総理大臣の脳はゴリラに、外務大臣のそれはオットセイに、大蔵大臣のそれはウマに。そしてその結果、国会は…。(議会制民主主義)学の真髄を伝える〈心狸学〉〈社怪学〉全14講。
(「BOOK」データベースより)

心狸学・社怪学

社会学用語で「ゲゼルシャフト」「ゲマインシャフト」という言葉がありまして。
私、この単語を「心狸学・社怪学」から学びました。

……テキストの選択が間違っていたように感じます。

ゲゼルシャフト Gesellschaft(機能体組織・利益社会)

利益や機能を第一に追求するコミュニティ

ゲマインシャフト Gemeinschaft(共同体組織)

地縁や血縁、友情で結びついた自然発生的なコミュニティ

タイトル「心狸学・社怪学」は、誤字・タイプミスではありません。
筒井センセエが心理学&社会学用語を、筒井調でブッた切った14編の短編集。
あくまでも“筒井調”ですのでね。『エディプス・コンプレックス』『ナルシシズム』『優越感』『原始共産制』『マス・コミュニケーション』その他の心理学用語もしくは社会学用語にこの短編集で初めて触れてしまうと、正しい用語認識に大きなずれが生じてしまいます。
そう。私のように。

「心狸学・社怪学」の新潮文庫初版の発行年は1975年。ハードカバーはどうやら、1969年に発行されたらしいですね。
同年の1969年は「霊長類 南へ」と同じ年。七瀬シリーズとほど同年代に執筆されています。
つまり、筒井康孝が書いて書いて書きまくって、それで「ドタバタ」「ナンセンス」「士農工商犬SF」と揶揄されていた時代の作品。

1969年当時、筒井康孝は35歳。
仕事にも乗っていて、勢いもあって、トンガった部分も多く(今もか)世の反感を怒りに変えてバネにする。
で、どうなるかというと、かーなーりーなヤケっぱち感に満ち溢れています。

「あなたは子供の頃、バイオリンを習っていたのですか」彼はおれの手のバイオリンを指して訊ねた。「上等のバイオリンだ」
バイオリンには『スピロヘータバリウス』という字が刻まれていた。おれはそれを膝でたたき壊し、投げ捨てた。
「父に、無理やり習わされたのです」おrは吐き捨てるように叫んだ。「父はバイオリンがうまかった。父はそれを、いつも母に自慢して……」涙がこみあげてきた。
「楽器は女体の象徴」と、医者は、わが意を得たとばかりに叫んだ。
海の彼方に、ぐにゃぐにゃしたエロチックな形の船があらわれた。
「ママ」おれは泣き叫んだ。「ママ。どうして行っちまうんだ」
「船は女の象徴」と、医者が叫んだ。「そして海は母親の象徴」
「ママ。待ってくれ」おれは海へとび込み、船めがけて泳ぎはじめた。
「母胎帰還願望」医者はそう叫びながら、おれを追って海へとびこんだ。

この短編集の各短編を、紹介するのはとても難しいわー。
かなりエロみが強いので、詳しい内容をネットに上げたら、Google先生に叱られちゃう。

例えば『フラストレーション』では、世の男性がこぞって独り遊びに興じる社会で(どんな遊びかってのは聞かないで)それによる女性の欲求不満を描いています。
『サディズム』では、特殊用途の女性型アンドロイド(どんな用途だってのは聞かないで)を製造しているメーカーの話を。

ごめん、詳しく説明したら、ほんのむしがアダルトサイトとして認識されてしまう。

エロみが薄い短編でも、ちょっとここでは説明しづらい。
『優越感』では、戸建て住人と団地住人による、血で血を洗う抗争について。
『原始共産制』では、東大の安田講堂が“陥ちなかった”未来について。
各方面への炎上のタネを撒きたくはないですからねえ。読みたい人は、本で読んでよ。

ぼくたちの、ぶらくの、うしろには、あかい、おおきな、もんが、あります。でも、そのもんは、いちどもひらかれたことが、ありません。ひらいては、いけないのだそうです。そして、ひらこうとして、おしても、びくともしません。ひらかれないように、なっているのだそうです。
もんの、むこうには、なにがあるのだろう。
もんの、むこうには、なにがあるのだろう。
ぼくは、しりませんが、りがくぶらくのうしろにも、やはり、へいがあるのだそうです。だから、この、とうだいこくという、くには、へいに、とりかこまれているのです。そして、この、とうだいこくのひとは、だれひとり、へいのそとへ、いったことが、ないのだそうです。
ああ。
へいの、むこうには、なにがあるのだろう。
へいの、むこうには、なにがあるのだろう。

風刺的、というより、攻撃的。
35歳の筒井康孝が「ドタバタだ?そう言うんなら、存分にドタバタしてやろうじゃねーか」
「くだらない?なら、二の句も告げないくらいにくだらないものを書いてやろうじゃねーか」と怒って叫んでいるようです。

およそ四半世紀ぶりに読んだ本ですが、久しぶりに読むと、小さな文庫本から飛び出してくる熱量と発奮とトゲに圧倒されそう。

いまから心理学もしくは社会学を学ばんとする学生諸子よ。
テキストの選択は、くれぐれも間違えないように。
うっかり「心狸学・社怪学」を最初に読んでしまったら、その後どんなふうに認識のずれが起こるかは、保証できないよ。

この記事が気に入ったら シェアをお願いします♪

フォローする

スポンサーリンク
レビュアー: さくら
さくら
レビュアー:さくら
ほんのむしの書評を楽しんで頂けましたら、また読みに来て頂ければ幸いです。皆様のお声がさくらの『やる気スイッチ』です!

いいね!と思ったらぽちっとな♪
以下のブログランキングに参加しています。
皆様のクリックがさくらの励みになります♪
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  
トップへ戻る