石田衣良「うつくしい子ども」

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緑豊かなニュータウンを騒然とさせた九歳の少女の殺人事件。犯人として補導されたのは、ぼくの十三歳の弟だった!崩壊する家族、変質する地域社会、沈黙を守る学校…。殺人者のこころの深部と真実を求めて、十四歳の兄は調査を始める。少年の孤独な闘いと成長を痛ましくもみずみずしく描く、感動のミステリー。
(「BOOK」データベースより)

石田衣良は、キッツい状況にあるキッツい人々を、温かく書くのが得意だなあ。
優しい人だなあ、と、思います。
実際はどうだかは分かりませんけどね。

「うつくしい子ども」の舞台は郊外のニュータウン。普通の、よりもちょっとハイソな、中流から上の下あたりのご家庭が住まう街です。
国立の中高一貫校に通う子供、CMで人気の子役タレント、緑豊かな環境に建つお洒落な住宅。
幸せな生活のステレオタイプ。

しかし主人公は「うつくしくない子ども」です。アダナはジャガ。南アメリカ原産の、あのゴツゴツしたジャガイモの、ジャガです。
思春期ニキビに悩まされ、端整な顔立ちの弟妹に比べてちょっとパーツが残念系。趣味はともかく勉強もスポーツもさして秀でたところがない、まあ、普通の子です。

普通の日常が続いているならば、ジャガもそのまま『幸せな生活のステレオタイプ』の一員である筈だった。

ぼくはこの世界で一番恐ろしいものを知っている。
それは誰がなんといっても、顔のない人が押す玄関のチャイムの音。
にぎやかな朝食のテーブルに響く、明るく空ろな電子の鐘の音だ。
—(中略)—
この世界で一番恐ろしいもの。それは顔のない人が押す玄関のチャイムの音だ。
だって、それはひとつの家族が壊れ、ひとりの殺人犯が生まれる音だから。
ぼくたち家族が、もう二度と元のように戻れないことを知らせる音だから。

1997年に起こった神戸連続児童殺傷事件。あの 少年A=酒鬼薔薇聖斗 の事件ですね。
「うつくしい子ども」は、その酒鬼薔薇事件をモチーフにしていると言われています。
猟奇的な殺人事件。捕まった犯人は、中学生。
犯人の“少年A”には兄弟がいた。「うつくしい子ども」の中では、その兄弟が、ジャガ。

自分の家族が殺人を犯し逮捕される。
加害者家族の苦悩と、心痛と、後悔。生活が180度変わる事件の影響が描かれています。

なにもいいかえせないぼくの家はいい標的なんだ。丸めた泥を思いきり投げつけるための。
それで、僕は泥をぶつけられるたびにお辞儀をする。
ありがとうございます。考えてみます。ぼくもそう思います。
機械のように繰り返すだけなら、涙は出ない。

この小説はちょいミステリー仕立てなので、話はジャガが真犯人を探す流れで進んでいきます。
弟のやったことは事実なんだけど、その裏にあるものを探る、という所かな。
友達ふたりの力を借りつつ、弟に殺人をさせた首謀者探し。ミステリ調とは言ってもその相手はすぐに明らかになりますので、犯人探しが主ではなくストーリーの彩りくらいに思っておいてください。

ネタバレになるから言わないけどね、明らかになった首謀者の結末と、その父親の発言に関しては納得いきませんね!なんでジャガもお願いを承諾しちゃうのぉ?!その選択で、アンタの人生だいぶ変わったかもしれないのよぉ?!
一時的な同情による選択を後悔する日がきっと来るような気がしてなりませぬ……。
ジャガの選択こそが、ジャガが「うつくしい子ども」である所以という意味なのでしょうか。心が。いや、納得できかねますな。

しかし犯人探しがどうのこうのは、いわば副産物です。
主題は、ある日突然に加害者家族となった少年が、運命を受け入れて立ち上がるまで。

諦めちゃいけない。ぼくは決心したはずだ。いつか灰色の港に着く日まで、あの灰色の海を力の限り漕ぎ続けると。
一度だけの面接で、弟を海に投げ捨てるわけにはいかなかった。

ジャガの覚悟が、しみじみ、染みる。
石田衣良は、過酷な環境にある、辛い思いをしている人を、温かく書く人だなあ。
優しい人だなあ、と、思います。
実際はどうだかは分かりませんけどね。

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レビュアー: さくら
さくら
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