石持浅海「崖の上で踊る」

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那須高原にある保養所に集まった、絵麻をはじめとする十人の男女。彼らの目的は、自分たちを不幸に陥れた企業「フウジンブレード」の幹部三人を、復讐のために殺害することだった。計画通り一人目を殺した絵麻たち。次なる殺人に向けて、しばしの休息をとった彼らが次に目にしたのは、仲間の一人の変わり果てた姿だった―。クローズドサークルの名手が挑む、予測不能の本格ミステリー。
(「BOOK」データベースより)

石持浅海 崖の上で踊る ミステリ

計画は完璧なはずだった。
仲間が仲間を殺すまでは——。
(「崖の上で踊る」帯文より)

相変わらず倫理観の欠如した、石持作品の主人公たち。
良いんです。それで良いんです。石持ミステリーに感情論と道徳心、ましてや社会常識なんていらない。
さくっと殺してさくっとお片付け、議論の最中は死体はそのまま放 置 プ レ イ♪

と、いうか。あれですね。既にして石持浅海の小説って、水戸黄門的な様式美が確立されていますよね。

・閉鎖的空間にミチミチと多人数が集まって

・その中の誰かが誰かを殺して

・でも諸事情により警察は呼ばず

・死体を放ったらかしたまま真犯人探しの議論にいそしむ

今回の「崖の上で踊る」も、上記のセオリーをちゃんと踏まえております。
水戸黄門のお約束にすがすがしさを感じるように、石持ミステリも「あるべきもの(死体)が」「あるべきところ(閉鎖空間)に」きちんと納められているのです。

笛木雅也の死体は、浴槽に放置した。
湯に浸かっていながら肌は青白く、対照的に溜められた湯は真っ赤に染まっている。血液が体内から湯に移動したことがはっきりわかる光景だった。

この小説、それなりに登場人物が多いですが、それでも名前を覚える苦労はありません。
何故ならドンドン死んでいくから。
上記引用文は冒頭1ページ目、1行目。ハイもう死んでます。
本筋に関係ない(?)人間は、季節が終わった冬物衣料のようにさっさと片付けられていくので、忘れてもヘーキ、ヘーキ。

真犯人を探したくなった人は、残った人員から考察していけばすぐに見つかる…が…、問題なのは読んでも読んでも死体が増え続けること。

最後の最後まで人が死にまくるので、小説が終わるまでに謎解きをしたい人は、やっぱり登場人物の名前くらい覚えておいたほうが良いかもですね。

謎解きを求めていない人はどうしたら良いかって?
そういう人は、いつものように石持ミステリの水戸黄門的様式美を楽しめば良いと思うのよ。私のように。

「崖の上で踊る」の舞台、株式会社フウジンブレードの社員保養所にお集まりの皆さんは総勢11名。画面上では現れませんが、主要人物はあと2名。

ちなみに、保養所が崖上に建っている訳ではありません。それじゃあ島田荘司か綾辻行人になっちゃう。
「崖」は、あくまでも比喩的表現としてお考え下さい。

株式会社フウジンブレードは、画期的な発電装置『フウジンWP1』を開発製造販売した企業です。

ご家庭で風力発電ができて光熱費が節約できると、急激に普及したフウジンWP1ですが、とある問題がありました。
発電の過程で低周波音が発生し、一部の人には偏頭痛を起こさせる恐れがあると。

偏頭痛と、それに起因する嗅覚障害、流産、ウツ、自殺などなど。

とはいえ、その問題を企業に認めさせるには、なかなか大変。過去に公害問題で苦しめられたリアルな被害者の皆様方も、企業責任を取らせるまでには大いなる苦労があったことでしょう。

「崖」の皆様、フウジン被害者の面々はどうしたのかというと。
姿が見えない“企業”と戦うよりも、姿が見える企業トップへの復讐に舵を切りました。
狙うは3名。冒頭ですぐ死んだ笛木雅也(浴槽の死体ね)と、あと2名を殺して、せめてもの心の安寧を得ようかと。

そこで即座に『復讐→殺人』に思い至るところが、石持ミステリ登場人物たちに倫理観が欠如していると言われる所以であろうかと。

知っているよ。
わたしたちが、崖の上で踊っているということを。
足を踏み外して、崖下に転落してしまうかもしれない。
でもね。
わたしはやめないよ。踊りきるまで。

保養所に集まった11名のうち、企業サイドの人間(死体)は1名。
つまり残る10名は、同じ目的(殺人)を持った仲間であるわけです。
同じ志を持った一枚岩。

の、一人が死んで。

多分、仲間の誰かが殺して。

そしてまた、別の誰かが死んで。

それも多分、仲間の誰かが殺して。

もともと低いモラルの面々が、復讐の目的によってさらに道徳意識が下がっているので、んまあ皆さん戦国時代並にワイルドですわ。

あっちでも殺しこっちでも殺し、と、まるでクリスティの『そして誰もいなくなった』並みにバッタバッタと死んでいきます。
ああ、ちなみに「崖の上で踊る」では登場人物の全員が死ぬことはありませんよ。
じゃあ生き残ったのが真犯人なのかと聞かれれば…まあ、それは、読んでからのお楽しみってことにしておきましょう。

「でも、わたしはまだ踊るのをやめないよ。明日の朝、中道と西山を殺すまでは、絶対に。雨森さんと絵麻さんは、どうする?」
「やめないよ」雨森はきっぱりと言った。「あの二人は、地獄に送る」
「わたしも」絵麻は下腹に力を込めた。「その意味では、わたしたちは間違いなく味方だね」

石持ミステリに、モラルの高い道徳者は必要ないけれど。
同じ様式美でも、水戸黄門とはちょっと、大分、すごく違うもんだなあ。

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レビュアー: さくら
さくら
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