渡辺淳一「ヴェジタブル・マン―植物人間」

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エリート商社マン瀬尾は、家族旅行の帰途、ちょっとした不注意から、人身事故を起こしてしまう。被害者は一命を取りとめるが、植物人間状態に陥る。医者から、患者はこのまま意識を回復せず、何年でも生き続けることもある、と聞いた瀬尾は、暗澹たる気持ちになり、いっそ被害者の死を望むまでに追いつめられる…。
(「BOOK」データベースより)

いっそ 死んでくれれば……

はい。渡辺淳一センセエのことを日経新聞御用達のポルノ小説作家だと思ってる人、手を挙げてー。

その認識はある意味正しい(?)ですが、渡辺センセエいつもいつも「失楽園」とか「アイルケ」とか、ポルノ小説ばっかり書いている訳ではありません。
元々は大学病院の整形外科のお医者さんだったので、初期の作品は医療関係の作品が主でございます。
てか、デビュー作は自身の在籍していた病院の医療ミスを内部告発した暴露本でした。昔からゲスいっつっちゃーゲスかったのね。

さてさて。その渡辺センセエが書いた医療系の短編集「ヴェジタブル・マン―植物人間」
これ自体は初期作品ではなく、執筆期としては「失楽園」のちょっと前くらい。渡辺センセエが脂ノリにノッてた頃の一本であります。

家族旅行から帰宅途中に、車で人を撥ねてしまった瀬尾隆治さん。
車の運転には自信があった瀬尾さんですが、事故ってのはちょっとした油断で、起こります。

被害者の男性は生死の境をさまよい、手術、ICU、、治療…。当然のことながら、治療にかかる費用は全て加害者の瀬尾さん負担です。
治療費以外にも、被害者男性と奥様が働けなくなっている間の休業補償というのも、加害者が負担すべきコストでしょう。慰謝料も後々考えなくてはね。

ちなみにですね。瀬尾さんの対人任意保険は、5千万円まで保障がされております。保険って大事ー!
5千万円も出るならばマイナスにならなくてすむかな、と、リスクヘッジした過去の自分グッジョブと安心はするものの、保険金は支払が終わってからの後払いなので、一旦は自分たちが費用負担しなければなりません。

被害者男性はひとまず生命の危機は脱したものの、意識は戻らず、いわゆる“植物状態”と呼ばれる状態になりました。
自分が『人殺し』にならなくなってホッと一安心……の瀬尾さんではありますが、それすなわち、彼の責任が今後もずっと続いていくことを意味します。

最初の請求、162万9千円。翌週の請求、64万8千円。その次の請求、84万円。
病院への支払以外にもかかる費用は山ほど。財布から万札がバッサバッサと羽ばたいて飛んでいく。

「もう絶対に快くならないの」
「先生はこのままだといっている」
「じゃあ、わたし達はあの人が生きているかぎり、ずっと面倒をみることになるの」
植物人間が十年生きた、という医師の言葉を、隆治は思い出したが、さすがにいいかねた。
「そんなことになったら、わたし達どうするの……」

瀬尾さんの試算では、今後の病院代は月々180万円程度。その他補償費と付添料も合わせたら、一年間にかかる費用は軽く3千万円を超えます。
任意保険の5千万円なんて2年もたたない内にスッカラカン。その後どうなるかは、暗い未来予想図しか見えてこない。

「ねえ、わたし達一体どうすればいいの」
きかれても隆治には答えようはない。とやかくいっても現実に植物人間はベッドの上で生きているのである。
あの人が死んでくれたら……
隆治の心のなかに初めて、ある不気味な思いが芽生えてくる。

私は20代の時に車の免許取得した後、永遠にゴールド免許を約束されたペーパードライバーなんですけどね。
今ではエンジンのかけかたすら忘れてしまいました。
仕事上でも家庭でも、車の運転が出来たほうが何かと便利だということは分かってはおりますが、駄目。さくらちゃん運転しちゃ駄目。私が運転したら、殺すか死ぬかの二択しかありえない。
それで、万々が一、相手の人が「ヴェジタブル・マン―植物人間」みたいな状況に陥ってしまったら?!想像するだに恐ろしい。『運転、ダメ、ゼッタイ』ですよマジで。

それで、結局のところ被害者男性はどうなったのかというとですね。
というか、瀬尾隆治さんがどうなったか、というとですね。

隆治が病院から、妻に電話をかけるラストシーンで。
隆治の顔に浮かんだ笑みと、電話の向こうの、妻の弾むような声。

どういう電話の内容かは、皆様ご想像くださいまし。
苦い薬を噛んでしまったような、心の底が冷えるような、そんな笑みと、弾む声で。

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レビュアー: さくら
さくら
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