浅田次郎「天切り松闇がたり〈第4巻〉昭和侠盗伝」

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時は昭和九年。関東大震災から復興を遂げ華やかなモダン東京を謳歌したのも束の間、戦争の影が徐々に忍び寄っていた。ついに寅弥が我が子のようにいとおしんできた勲にも召集令状が届く。国の無体に抗おうと松蔵らが挑んだ企みとは?激動の時代へと呑みこまれていく有名無名の人々に安吉一家が手をさしのべる五編。人の痛みを、声なき声を、天下の侠盗たちが粋な手並みですくいとる。
(「BOOK」データベースより)

天切り松シリーズも4冊目になりました。初の短編「闇の花道」の大正時代では9歳の小僧だった松蔵も、昭和九年ともなれば26歳の青年に!いやーおっきくなっちゃって松っちゃ~ん。
黄不動の兄ィから天切りの技も伝授して頂き、盗人稼業にも精を出すいっちょまえのオ・ト・ナです。

松蔵がオトナになったってことは、親分である目細の安吉はちょっとジイさんに。
最近ではゴトもあまりいたさず、ご隠居感が出てしまっているのが少々寂しいところ。
天切りの先輩である黄不動サマも、結核にかかってサナトリウムでご静養。ああ、愛しのダグラス・フェアバンクスよ!

日本の国も、昭和九年ともなれば軍国主義まっさかり。世の中に不穏な空気がたちこめています。
あっ、ちなみに昭和九年というのは、地下鉄の銀座線が開業した年ね。渋谷に忠犬ハチ公の銅像が建ったのもこの年よ。

そして、この年に建てられた銅像はもうひとつ。
上海事変で爆弾を抱えて敵陣に走り自爆した肉弾三勇士。彼等の銅像も、昭和九年に除幕式が行われました。

いろいろなことがあったけれども、目細の一家が踏んできたヤマは、けっして屁のつっぱりなどではないと松蔵は思った。
貧乏人の米櫃に手をつっこんだためしは一度もない。盗られて困らぬ天下のお宝だけを、掠め取ってきた。
だが、赤紙ばかりはどうしようもない。
「親分——」
松蔵は顔を上げた。
「年寄りにァできねえ屁のつっぱりでも、俺っち若え者にはまだまだできます。一文の得にもならねえ仕事を、どうか俺っちにさしておくんなさいまし」
ほう、と親分は身を起こして松蔵を見つめた。
「一文の得もねえ、か」
「へい。屁のつっぱりに体を張るのも、乙なもんだと思いますんで」

えーと、先に言っちゃいますけどね。
松蔵とおこん姐さん、書生常のお三方は、それぞれ“盗られて困らぬ天下のお宝”を掠め取って、先ほどの肉弾三勇士の除幕式にぶっつけてきます。
“天下のお宝”が何なのか、どうやって掠め取ったのか、そして肉弾三勇士とどう関係するのかは、是非!是非!是非お読みになって!ここで簡単に抜粋するほどケチな『屁のつっぱり』じゃございませんことよ。

ちなみにこの『第一夜 昭和侠盗伝』において、天切り松という通り名がはじめて登場します。
松蔵に天切り松という名前を与えたのは…これも、ここじゃ言えないな~。

「二ツ名をてめえで名乗るのは下衆でござんす。名前は男の貫禄に付いてくるもんだと、親分からもきつく申し渡されておりやす」
元帥は天井に目を戻して、病み疲れた瞼を静かにおろした。
「名もない盗ッ人に勲章を奪われるわけにはいくまい。俺がおはんに二ツ名をくれちゃる。天切りの技を使う松蔵ならば、天切り松でよかろう。以後、そのように名乗られよ」
天切り松。神様がお付け下さった名前なら、親分も文句あるまい。

いやーおっきくなっちゃって松っちゃ~ん!

前三冊では天切りのお仕事をしていなかった松蔵改め天切り松ですが、4冊目の「天切り松闇がたり〈第4巻〉昭和侠盗伝」ではもういっこお仕事をしてございます。
それが『第四夜 王妃のワルツ』

中国は清朝の末裔、愛新覚羅溥傑と嵯峨侯爵のお嬢さま、浩さんの恋物語。いや、恋がはじまる前のお話ですねこれは。
国を挙げての政略結婚に反発する若きおひいさまが、憧れの黄不動に『私を攫って!』と迫るストーリーというか…浩ちゃん、気持ちはすごく分かるよ。私だって黄不動兄ィに攫って欲しいさ。ゲイリー・クーパー似の六尺ムンムン色男。黄不動~っ!私も攫って~!

ここでの松蔵の仕事、ってーのはですね、あまりストーリーの主題には関係ないので、駆け出し盗人の松っつぁんは横に置いておきましょう。
それよりも、ここは黄不動ですよ。テールコートに身を包み、お姫様をかっ攫うために舞踏会に現れた黄不動ですよ!

弦が前奏を唄い始める。右手を伸べて紳士がお姫様に近寄ってきた。
「よろしければ、お相手を」
「喜んで」
たちまちドレスの腰をからめ取ると、紳士はまるで氷の上を滑るようにワルツを踊り始めた。
いったいこのリードの優雅さここちよさは何としたことだろう。こんなに大きく舞っているのに、紳士のステップには靴音のかけらもなかった。
「まあ、何てお上手なんでしょう」
「ダンスも盗ッ人も、コツは同じですから。こう、抜き足、差し足」
「忍び足」

えっ?黄不動さん、結核でサナトリウム静養はどうなったのかって?
そりゃあ夜の闇にまぎれて脱走、お好きな場所に神出鬼没ですよ。そんな無茶してるから身体治んないんだっつーの。

さて、このままダンスパーティの会場から、お姫様を攫う花泥棒になるかと思いきや…

愛新覚羅溥傑と浩さんに、その後に起こった長い長い流転の物語は、実際の歴史書を読めば誰もが知っている話ですね。
夫婦の長い長い恋物語のいっとう最初に、花泥棒から花を守った溥傑中尉も、また素敵じゃありませんこと?

浩さんが黄不動にかっさらわれるという歴史も、これまた乙なものかもしれませんでしたけれども。
浩ちゃん、気持ちは分かるさ。私だって黄不動兄ィに攫って欲しいさ。ゲイリー・クーパー似の六尺ムンムン色男。黄不動~っ!私も攫って~!

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レビュアー: さくら
さくら
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