江戸川乱歩「江戸川乱歩名作選」

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見るも無残に顔が潰れた死体、変転してゆく事件像(『石榴』)。絶世の美女に心奪われた兄の想像を絶する“運命”(『押絵と旅する男』)。謎に満ちた探偵作家・大江春泥に脅迫される実業家夫人、彼女を恋する私は春泥の影を追跡する―後世に語り継がれるミステリ『陰獣』。他に『目羅博士』『人でなしの恋』『白昼夢』『踊る一寸法師』を収録。大乱歩の魔力を存分に味わえる厳選全7編。
(「BOOK」データベースより)

この本は、過日ご紹介しました「江戸川乱歩傑作選」と対になる短編集です。
とはいえ、2冊が同時に発刊された訳ではありません。

「江戸川乱歩傑作選」の方は、1960年に江戸川乱歩ご本人が監修してチョイスされた、大乱歩先生の『俺大好き~!この9編、めっさ好き~!』の集結本。

乱歩を初めて読む人にとってはこれ以上の入門書は存在せず、乱歩の存命中に刊行された文庫本としては、唯一現在でも版を重ねるロングセラーとなっているのも納得である。
(「江戸川乱歩名作選」解説より)

うん、私も納得である。

こちらの「江戸川乱歩名作選」の方は、2016年にミステリ研究家の日下三蔵さんが、新潮社からの依頼で編んだ7編が収録されています。
日下さんったらなかなかのギャンブラーですね。
ポーカーゲームで強い絵札が既に相手に渡っている状況で、残りの札で相手に勝る、勝らずとも向こうを張るだけの技を作らなければならない。

さて、できた技はストレートかフラッシュか、はたまたワンペアかロイヤルストレートフラッシュか?

まあ、正直言ってしまえば、「江戸川乱歩傑作選」の方が好きではあります。
そりゃあ仕方がない。私の好きな「芋虫」やら「鏡地獄」やら「人間椅子」やらが、既に傑作選の方に入っているのですもの。

ですが乱歩ファンの間では、自分好みの短編が未収録になっていることに若干の不満を覚える向きも。
どんなアーティストのベスト盤だって生じる不満ではありますけどね。

そこらへんのコアな乱歩ファンを満足させるべく、傑作選からは漏れた名作もきちんと収められております。

『押絵と旅する男』なんぞは、傑作選のレビューなどを見るに「どうして押絵が入ってないのか…」とよく出てくる作品。
だいじょーぶよー!名作選のほうに、押絵ちゃんと入ってるよー!

私的には、名作選の中では『人でなしの恋』とか好きですよ。ダンナの浮気疑惑に悩む若奥様の話。これも乱歩ファンの間では人気が高いですよね。
“人でなし”の意味がね。確かにね。人でなしよね。

しかし今回、ちょっと触れておきたいのは、わずか8ページの『白昼夢』であります。
このショートショート、乱歩というより、なんだか平山夢明みたい。

「……おれは女房の死骸を五つに切り離した。いいかね、胴が一つ、手が二本、足が二本、これでつまり五つだ……惜しかったけど仕方がない……よく肥ったまっ白な足だ……あなた方はあの水の音を聞かなかったですか」男は俄かに声を低めて言った。—(中略)—「三七二一日のあいだ、私の家の水道はザーザーとあけっぱなしにしてあったのですよ。五つに切った女房の死体をね、四斗樽の中へ入れて、冷していたのですよ。これがね、みなさん」
ここで彼の声は聞こえないくらいに低められた。
「秘訣なんだよ。秘訣なんだよ。死骸を腐らせない……屍蝋というものになるんだ」

「江戸川乱歩名作選」の後ろにある乱歩先生の自作解説で、この短編はもともと作家仲間(兼・医学者)の小酒井不木氏から「死体に水道の水をかけっぱなしにしておけば、そのうち屍蝋になるよ」と聞かされたことがきっかけとなったそうです。
製作のきっかけとなったエピソードは、ちなみにもうひとつあるのですけど。ここではちょっと秘しておきましょう。

浮気女房に逃げられたとウワサの、薬屋店主。
暑い、あつーい夏の昼日中、店先で人を集めて演説をぶっております。
集まった人々は店主の話を暇つぶしのネタに聞きはするけれど、誰も本気にはせず(あのオヤジ暑さでとうとうイカレちまった)と揶揄するばかり。

薬屋の店主は女房に逃げられたのではなく、愛する妻を永遠に我が物にしたと。
“キッスしたい時にキッスができ”て、“抱きしめたい時には抱きしめることも”できる。
そして、妻殺しの罪で捕らえられることもない。おまわりだろうが刑事だろうが気がつくまい、隠し場所に置いているから。

薬屋の店先には、全身の皮膚病を紹介した人体模型がひとつ。

私の目の前のガラス箱の中に女の顔があった。彼女は糸切歯をむき出してニッコリ笑っていた。いまわしい蝋細工の腫れ物の奥に、真実の人間の皮膚が黒ずんで見えた。作り物でない証拠には、一面にうぶ毛がはえていた。

店先に集まった群衆は(あのオヤジ暑さでとうとうイカレちまった)と揶揄するばかり。
おまわりさんも、その他の人も。

これは、生暖かい風になぶられながらヒョロヒョロと歩いていく語り手の白昼夢なんですかね?
それとも、平山夢明的な東京の恐怖なんでしょうかね?

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レビュアー: さくら
さくら
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