東野圭吾「超・殺人事件-推理作家の苦悩」

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新刊小説の書評に悩む書評家のもとに届けられた、奇妙な機械「ショヒョックス」。どんな小説に対してもたちどころに書評を作成するこの機械が、推理小説界を一変させる―。発表時、現実の出版界を震撼させた「超読書機械殺人事件」をはじめ、推理小説誕生の舞台裏をブラックに描いた危ない小説8連発。意表を衝くトリック、冴え渡るギャグ、そして怖すぎる結末。激辛クール作品集。
(「BOOK」データベースより)

ウェブスター「あしながおじさん」の中で、作家を志すジュディがデビュー作の題材として採り上げたのは、彼女自身が育った孤児院ジョン・グリア・ホーム。
自分がよく知る環境なればこそ、地に足がついたストーリー立てと細に入った描写で筆が踊るというものです。

リアルに目を向ければ、日本の小説家の大先生方も、出版界を舞台にした作品の多いこと多いこと。「作家刑事毒島」然り「中野のお父さん」然り。挙げればキリのないほどに。
世界が狭い?いえいえそんなことはありません。自分のよく知る世界だからこそ、作者の筆も踊るというものです。

東野圭吾の「超・殺人事件」も筆が踊りっぱなし!東野圭吾の同系列シリーズに「名探偵の掟」という短編集がありますが、こちらはグッと『推理作家』に焦点をあてております。
全8作の「超○○殺人事件」いずれも、関西人の容赦ないツッコミとイチビリに溢れた、思いきり笑える、でも小説家と編集者にとっては笑い事じゃない、短編集です。

「物質の最小構成要素はクォークとレプトンであり、それらの粒子の間に四つの力が働いている。クォーク数は普遍であり、陽子は四つの力に対して安定である。大統一理論とは電磁気力、強い力、弱い力はもともとひとつの力であり、それが低いエネルギーでは別の力のように見えるとする理論である。この統一する力はクォークとレプトンを対等に扱い、必然的にクォークとレプトンの相互遷移をひきおこす」

はい、上記の引用を読み飛ばした方ー。
あなたの感覚は普通です。それで良いです。『超理系殺人事件』の冒頭でも、作者の東野圭吾自身がお墨付きです。

「この小説が肌に合わない方は飛ばし読みして下さい。」

逆に、先ほどの引用を読み飛ばさずにじっくり読んだ真面目な方。もしくはスルスルと入った超理系な方。もしくは、内容はわからないけど意地になって読み込んだ方。
そんな方は、本で引用の続きをお読みになって。

『超理系殺人事件』の全てを、読み飛ばさずに理解せずに読み終えたら、どうなると思う?

ちなみに「超・殺人事件-推理作家の苦悩」の中で一番笑えるのは『超税金対策殺人事件』だと思いますが(マジちょー楽しいよこれ!)極私的にお気に入りなのは『超読書機械殺人事件』であります。

仕事に追われる書評家のためにナイショで販売されている書評代行機械“ショヒョックス”
小説のあらすじを要約してくれるだけでなく、ボタンひとつで書評を作成してくれる。モード切替で甘口・辛口自由自在。
オプションにより、ユーザー様の文体や好みに合わせたオリジナル設定も可能です。

“ショヒョックス”の普及に従い、作家側も対抗策を。“ショヒョックス・キラー”でショヒョックス評価を上げる小説の執筆を代行してもらうように。

「いいですか虎山さん。現在殆どの評論家がショヒョックスを使って仕事をしています。彼等自身は本なんか読んでません。—(中略)—読者はそれを見て本を買います。要するに作家が意識すべきなのはショヒョックスなのです。また文学賞の選考も、大半がショヒョックスによる評価を基準に行われています。いつまでも人間相手に小説を書いてちゃいけません。発想を転換しなさい。ショヒョックス・キラーを使って小説を書き、ベストセラー作家になりましょうよ」

ここで思い出されるのが、ロアルド・ダール「あなたに似た人」に収録されている『偉大なる自動文章製造機』
こちらの機械は、小説自体を丸ごと作ってくれてしまいます。純文学から娯楽小説、壮大なサーガもお望みのままに。
“ナイプの大自動文章製造機”は急速に普及し、発売一年後には英語圏作家の大半が自動文章製造機を使用して小説を執筆し、機械を使おうとしない従来の小説家を圧迫するように…。

いま、この瞬間、となりの部屋で飢えに泣きわめく、私の九人の子供たちの声をききながら、ここにこうして坐っていると、自分の手が、デスクの向う側においてある、あの黄金の契約書の方へ、少しずつ、少しずつのびて行くのを、私は感じるのですよ。
われらに勇気を、おお神よ、われらに、子供たちを飢えさせる勇気をあたえたまえ。

(ロアルド・ダール『偉大なる自動文章製造機』)

1953年の英国でも、2000年の日本でも、執筆のハイテク化ってのは著しいものです(そういう感想?!)

奇妙な時代だ、と思う。本をあまり読まないくせに、作家になりたがる者が増えている。さほど売れていないのにベストテンが発表されたりする。一般読者が知らないような文学賞が増えている。本という実態は消えつつあるのに、それを取り巻く幻影だけがやけに賑やかだ。
読書ってなんだろうな、と黄泉は思った。

下手したらそのうち、読者側の読書代行マシーンとかもどこかで発売されそう。

機械が小説を書いて、それを機械が書評して、機械が読書する。
ほんとに、奇妙な時代。

「超・殺人事件-推理作家の苦悩」全8作。いずれも、関西人の容赦ないツッコミとイチビリに溢れた、思いきり笑える、でも笑い事じゃない、短編集です。

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レビュアー: さくら
さくら
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