有川浩「海の底」

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4月。桜祭りで開放された米軍横須賀基地。停泊中の海上自衛隊潜水艦『きりしお』の隊員が見た時、喧噪は悲鳴に変わっていた。巨大な赤い甲殻類の大群が基地を闊歩し、次々に人を「食べている!」自衛官は救出した子供たちと潜水艦へ立てこもるが、彼らはなぜか「歪んでいた」。一方、警察と自衛隊、米軍の駆け引きの中、機動隊は凄絶な戦いを強いられていく―ジャンルの垣根を飛び越えたスーパーエンタテインメント。
(「BOOK」データベースより)

161025

作者の有川浩曰く、この本は『有川式大人ライトノベル第二弾』
ちなみにあとのふたつは「塩の街」と「空の中」です。
ちまたではよく『自衛隊三部作』とも呼び交わされていまして、その括りで言えば自衛隊陸・海・空の海上自衛隊バージョンです。

さてこの三部作。いずれも日本にトンデモ事態が発生して、それに立ち向かう人々を描いたお話です。
「海の底」も、トンデモ具合で言ったらハンパねぇ。横須賀の米軍基地にとある巨大生物が襲来します。

その巨大生物とは…ザ~リ~ガ~ニ~。

「隊長…」
西宮中隊長が何を問いかけるでもなく声をかける。その硬い声に含まれた意味合いは一つだ。
機動隊で勝負になるのか。機動隊で想定されている警備対象は、人間と災害だけだ。未知の巨大生物など想定外もいいところである。
『ウルトラ警備隊ですね、我々は』

相模湾で異常発達したザリガニ『サガミ・レガリス』が、大群となって人間を捕食するという非常事態、いや非常識事態。
ブッ飛んだ設定でもハチャメチャに陥らないのは、ありえない設定を詰めに詰めたディテールで補完するから。
もし横須賀に巨大生物が実際に現れたら、警察はまず何を始める?政府はどう対応する?マスコミは事件をどう報道する?民間人の避難はどこへどうやって?米軍の動きはあるか?
さらには、停泊していた潜水艦に自衛官と子供達が閉じ込められたら、生活はどうなる?食料は?トイレは?風呂は?外部との連絡は?

「ホラを吹くために周囲の事実関係を詰めていく。そういう書き方が自分には合っているし面白い。と、いうことに『空の中』を書いたとき気がついて、『海の底』で定着しました」
(角川文庫「海の底」解説より)

トンデモ設定を詳細な検証で固めていく話といったら、小松左京を思い浮かべますね。
作風や文体はかなり違いますが、いや、負けてないから。勝ち負けの問題じゃないんだけど。
うっかり読みやすさにまどわされそうですが『有川式大人ライトノベル』なかなかに硬質なお話ですよ。

『自衛隊三部作』とも呼ばれる「海の底」ですが、かといってこのお話が『巨大エビと自衛隊がドンパチ合戦☆』になる訳ではありません。
だってそうでしょ?過去の災害からしても、自衛隊の出動に至るまでには様々なハードルをクリアする必要があったことはご承知の通り。政府とか、外交とか、憲法とか、主にオトナの事情で。
それが、こんなゴジラ襲来みたいな非常識な状況下で、自衛隊出動を即断即決できる政治家がいると思われます?

よって、だな。この小説を構成する2本柱のうちの1本は『いかに自衛隊を担ぎ出すか』に向けて奮闘する神奈川県警機動隊の姿が主になっています。
これが、ねえ。超々格好良いです神奈川県警。
何が格好良いって、ドンパチやって拳銃撃つのが格好良いという事ではありません。「あぶない刑事(デカ)」じゃあるまいし。
彼等の格好良いところは、信義のために格好悪いことを全力で出来るところ。

「口を慎め」
金岡は強い口調で言った。
「彼らはこの壊走を任務と言った。誰にも言い訳できないこの不名誉を。彼らが一体誰のために任務としていると思う」
省庁の反目もあろう、縄張り意識もあろう。しかし、手を借りることさえ潔しとしない相手を担ぎ出すために彼らはこの壊走を強いられるのだ。それは一体いかばかりの屈辱か。
—(中略)—
「見届けろ。あの苦闘の上に自衛隊が出動することを胸に刻め」

リアルでは不祥事多くて悪名高い神奈川県警ですが、もし現場の方々がこの小説の登場人物であるならば、心から経緯を評してしかるべきと存じます。えーと頼むよ、神奈川県警さん?現場の皆さんは、これと同じ男気があると信じて、良いですかね?

「海の底」では他にも、有川きゅんきゅん製造工場の名に恥じないきゅん成分もあり、少年達の密室群像劇もあったりするので、若者系をお好みの方はそこいらへんでもお楽しみ頂けます。

そして、私と同じようにオヤジ好きの皆さん!『おっさん萌え』の有川浩で、イカした格好悪いプロフェッショナル達にきゅんきゅんしようではありませんか。
おっさんにきゅん!神奈川県警にきゅん!

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レビュアー: さくら
さくら
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