我孫子武丸「裁く眼」

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漫画家になり損ね、浅草の路上で似顔絵を描いて生計を立てている袴田鉄雄。あるとき、彼の腕前を見込んだテレビ局の人間から、「法廷画」を描いてほしいという依頼が舞い込む。注文通り描いた絵が、テレビで放送された直後―鉄雄は頭を殴られて昏倒する。彼は一体、何を描いてしまったのか?
(「BOOK」データベースより)

161212

テレビや新聞などの報道で、犯人の写真を映される度に『犯罪は犯してはいけない』と強く思う私。
どうしてメディアって、事件加害者の顔には“悪そう”“貧相”“馬鹿そう”な写真をチョイスするんでしょうね?あとは警察の指名手配写真とかも。
「犯罪者に人権はない、逃亡犯に人権はない」という気持ちが、写真をチョイスする人間の心のどっかにあるのではないかと感じてしまいます。
かといって、犯人側からしたら『右ななめ75度から撮影した写真でよろしく』と注文つける訳にもいかないしね。
報道メディアに『その写真はやめてーーーー!』という過去の写真を使われたくないという気持ちが、犯罪を防止する抑止力であらんかと。

そして写真と同様に、やっぱり犯罪への抑止力となり得るのが、法廷スケッチの存在。
おおかたの法廷スケッチでは、被告の顔がすっごく“悪そう”“貧相”“馬鹿そう”に描かれています。
いやあれは悪意がありますよね。悪意までは言わずとも、意図的な筆の進ませ方はありそう。

でも、法廷画家の意図的な描き方は、もしかしたら彼等の身を守る手段なのかもしれません。
「裁く眼」の主人公のように、自分の眼に見えるそのままの姿を描いたら、誰かが殺されちゃうかも、しれないし。

「最終的に読者、視聴者の目に触れるものはいつだって、様々な規制と編集を経たものに過ぎないからな。写真は真実で絵は嘘だって話でもない。とすれば法廷画もまた、編集された“報道”の一つだよな。君が目にしたもののどこをどう描くか、カメラよりずっと自由度が高いだけにその責任はカメラマンよりも重いのかもしれない」

我孫子武丸が実際の裁判を題材にして小説を書くのは、私が知る限りでははじめてのような気がします。
実際の裁判というのは、木嶋佳苗が逮捕された「首都圏連続不審死事件」。付き合った男性を複数人、練炭自殺を偽装して殺害したという事件の裁判です。
このブログでは「毒婦。木嶋佳苗100日裁判傍聴記」「別海から来た女――木嶋佳苗_悪魔祓いの百日裁判」で、実際の事件について取り上げましたが、こちらはあくまでもモチーフ。事件そのものをなぞらえた話ではありません。
そしてこの小説「裁く眼」の主人公も、事件の直接関係者ではありません。
彼 袴田鉄雄は、漫画家くずれの似顔絵描きです。

ほぼ無職プーの彼が、法廷画家のピンチヒッターになったことから、事件ははじまります。

漫画家を志していた時でも画力には定評があった主人公は、はじめての法廷画でもその能力を遺憾なく発揮します。
彼の能力とは、対象人物を絵に描く時に、余分な情報を排除して真実を強調した絵に出来ること。そのため、心美しい人間はより美しく、心汚い人間は醜く見える絵になります。

「写真より、生で見るより、本当の姿を伝えてるのかも」

彼が書いた被告の姿は、元々の顔立ちが美女であるだけでなく、とても美しく描かれました。
そしてその法廷画がテレビのワイドショーで公開された直後、彼は何者かに襲われて負傷。
彼の描いた被告の似顔絵が襲撃を招いた?それとも全く関係のない、通りすがりの強盗被害だった?
訳もわからないままに、とりあえず仕事を続けようと思った主人公の元に、隣り合わせた別の法廷画家が殺されたというニュースが飛び込んできました。
この法廷には、決して描いていけない何かがあった?

…ってな話で。
せっかく久方ぶりの我孫子武丸ミステリなんで、謎解きをしたい方は実際に本をお読み頂きたいのですが。
でも正直言って、私としてはこの小説の結末には納得し難いですね。いや、ストーリー的には事件解決しているので、良いっつっちゃ良いんだけど。
事件が解決した後の、後仕舞いが「え?これで終わり?」くらいに肩透かし。
ミステリだから謎が解明されりゃ終わり、じゃないんだからさあ。最後3ページくらい落丁したの?それとも連載〆切の時間制限でもあったの?と邪推しますね。

地上波放送された映画で、時間の都合上で最後のクレジットがカットされたようなぶった切り感で、最後の最後だけが消化不良。
映画マニアの我孫子さん、あなたならその尻すぼみ感が分かるはずよ。もしこの本を文庫化するのだったら、是非ともあと3ページ、3ページで良いのよ書き足して。
クレジットの最後まで堪能してこそ、映画も小説も余韻に浸れるってものじゃないですか。そこんとこ頼んますよ我孫子さん。

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レビュアー: さくら
さくら
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